環境科学会誌
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一般論文
原子力災害による福島県産農産物の被害額推定
-ナメコを例に-
園田 雄己加藤 尊秋
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2014 年 27 巻 1 号 p. 20-31

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抄録
2011年3月11日に東日本大震災が起き,東京電力福島第一原子力発電所で事故が発生した。多岐にわたる被害の中でも,農産物の汚染は広く注目を集めた。本研究では,東京市場での福島産ナメコ価格に着目し,震災が無かった場合の3月11日以降の価格推移を重回帰分析によって予測する。その後,予測によって求めた2011年の本来の売上から2011年の実際の売上を引くことにより,震災後における東京市場と福島県全体の被害額推定を行った。福島県産のナメコは98%が空調栽培で出荷されているため,天候に応じて出荷量が大きく変動することはない。また,ナメコは年中出荷が可能である為,年間の価格推移を追跡可能である。重回帰分析は,被説明変数に2006年1月1日から2010年12月31日までの東京市場の福島県産ナメコの価格データを用い,説明変数はナメコの需要と供給に関連する多くの候補を試した。2011年のうち震災前の価格推移を実際のデータと比べたところ,完成したナメコ価格予測モデルは,過去5年分の価格平均値に比べ,実際の価格をより忠実に再現できた。価格予測モデルにより,2011年には,本来の価格からの下落が目立つ時期が3箇所見いだされた。このうち,10月初旬以降の下落は,同じ時期に各地でキノコ類の出荷制限が増加したことが原因と推測された。2011年の東京市場における福島産ナメコの被害額を算出した結果,本来あったはずの売上の約34%にあたることがわかった。福島県全体から出荷されるナメコの被害額は,2.1~2.2億円と推定された。
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© 2014 社団法人 環境科学会
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