環境科学会誌
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最新号
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一般論文
  • 市村 達哉, 栗栖 聖, 福士 謙介
    2024 年 37 巻 3 号 p. 64-79
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    COVID-19の流行による営業活動の制限で,外食産業は大きな打撃を受けた。感染症拡大下での事業の継続には,安全な飲食空間の形成が必要であり,その手立てを講じるためにも感染リスクの適切な評価が重要となってくる。

    そこで,飲食店における様々な会話状況に応じたSARS-CoV-2空気感染リスク低減効果を定量的に評価することを目的として,本研究を行った。

    手法としては,実際の会食時の会話状況を分析し,その結果を加味したCFD解析によって,飲食空間における発声抑制や会話時のマスク着用といった行動が,どの程度空気感染リスクの低減につながるかの評価を行った。

    シミュレーションの結果,換気の調整のみでは局所的な飛沫核濃度変化を生じるにとどまり,大幅な濃度減少が期待できないケースもあった。一方で,感染者が声量の抑制や会話時のマスク着用を行った場合は空間全体の飛沫核濃度の低下を観測でき,一部の対策でも無対策時と比較して空気感染リスクを40%以上低減できるケースがあることがわかった。

  • 森 保文, 淺野 敏久, 前田 恭伸
    2024 年 37 巻 3 号 p. 80-91
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    予定行動理論は,費用対効果のアプローチに基づいて,趣味やスポーツなどの様々な活動参加を説明してきている。ボランティア活動参加のメカニズムを解明するために,予定行動理論および人口統計的・心理的な要素を用いた基本モデルをボランティア活動に適用した。2019年および2020年に実施した二つの全国調査から得られたデータを用いた。予定行動モデルはボランティア活動参加の意図を比較的よく説明したが,実際の参加を予測するものではなかった。予定行動モデルと基本モデルの両者において,ボランティア活動参加に関係する弱い要因しか見いだせなかった。これらの結果は,ボランティア活動の参加メカニズムが,レジャー活動の参加など通常の行動とは異なることを示している。ボランティアを募集する戦略においては,これらの違いを考慮する必要がある。

  • 木村 篤史, 佐藤 響平, 小谷野 郁弥, 後藤 真太郎
    2024 年 37 巻 3 号 p. 92-99
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    環境保全型農業で水稲の生産性と,ため池から圃場に至る水や地力等の環境条件との関係を窒素固定量などで定量的に評価する場合,圃場内の水稲と雑草は,それぞれ窒素を固定するため,水稲と雑草を分けて評価が必要になる。

    本研究では,UAVによる空撮の可視画像とCNNモデルの一種であるSSDを用いて,有機稲作圃場に生育する雑草の検出を試みた。検出対象はイネと主な雑草であるイボクサとコナギとした。検出時の類似の確信度を50%以上とした場合,イネ,イボクサ,コナギの再現率は,それぞれ54.8, 7.1, 28.6%,適合率はそれぞれ77.3, 50.0, 28.6%,F値はそれぞれ0.642, 0.125, 0.286であった。イネの検出精度が最も高く,次いで,コナギ,イボクサの順であった。これらの結果により,イネの検出が可能であると考えられる。これは,イネと雑草との判別ができる可能性を示した。

  • 鷲津 明由, 野津 喬, 丸木 英明, 景浦 智也
    2024 年 37 巻 3 号 p. 100-114
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    スマート農業への取り組みをニッチ・イノベーションと位置づけ,各都道府県における取り組みの進捗状況をサスティナビリティ・トランジションの理論に基づいて定性的に評価した。用いた調査資料は,2023年3月時点で,日本の各都道府県が公表している農業農村振興計画や農林推進振興計画などの農業分野における最上位計画,及び,スマート農業推進計画・方針など,スマート農業化の推進に関連して各県が策定した資料である。調査の結果,スマート農業への取り組みが進んでいる県では,推進計画に沿ってトランジション・マネジメントの手順に合致した推進施策が採られているが,「柔軟性のある仕組み」や「タイミングを逃さず介入する仕組み」という点について,取り組みのない場合が多かった。また,2000年代から2010年代に開発されたスマート農業の技術であり,土地生産物の平均価格や,生産者一人が耕作可能な農地面積の上昇に関わる技術を中心に,その定着化が目指されていることが分かった。一方,スマート農業の具体的推進計画を作成してはいないものの,農業の上位計画でスマート農業の将来的見通しを詳細に策定している県では,イノベーションのための具体的なマネジメント施策を欠く一方,「問題点の把握がされているか」や「長期的視点を持つか」といった面では,ランドスケープの変化を的確に把握し視野の広い見通しがたてられていると考えられた。そして,炭素貯留やGAPの取得など,面積当たり土地生産物を改善するための新しいイノベーションへのチャレンジを視野に入れていることが分かった。農業の再エネ利用やカーボンニュートラルに関する取り組みについて,それがスマート農業との一貫性を持って進められている状況とは言えなかったが,再エネ活用や脱炭素を将来ビジョンに盛り込み,地方創生のきっかけにしようとする県も出現していた。

研究資料
  • 島崎 洋一
    2024 年 37 巻 3 号 p. 115-120
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,気候変動適応を踏まえて,山梨県峡東地域における果樹栽培の環境要因の特徴を明らかにすることである。対象地域は「峡東地域の扇状地に適応した果樹農業システム」として,2022年7月に世界農業遺産に認定された。航空写真(2011年撮影)および農地区画単位(201,917区画)に基づき,8種類の栽培を分類した。地理情報システムを用いて,8種類の栽培面積(ブドウ・モモ・サクランボ・カキ・リンゴ・田・畑・その他)と6種類の土壌面積(アロフェン質黒ボク土・グライ低地土・灰色低地土・褐色低地土・未熟低地土・褐色森林土)に関するオーバーレイ解析を適用した。また,不定形な農地のポリゴンデータを定形のグリッドデータに分割する数値プログラムを使用して,気象や地形などの環境要因について栽培別の加重平均値を算出した。解析の結果,対象地域における面積割合は,大きい順に,モモが35.6%,ブドウが32.8%,その他が18.2%,畑が11.8%であり,4種類の栽培面積で地域全体の98.4%を占めた。ブドウとモモの栽培土壌を比較した場合,ブドウは褐色森林土の面積割合が高く,モモはアロフェン質黒ボク土や褐色低地土の面積割合が高いことがわかった。年平均気温の加重平均値は,ブドウが13.4°C, モモが13.5°C, 畑が13.3°C, その他が12.7°Cである。平均傾斜角度の加重平均値は,ブドウが4.5度,モモが3.7度,畑が4.7度,その他が7.3度である。気温上昇に伴う将来の対象地域内の植え替えを想定した場合,その他は褐色森林土の面積割合が高いため,モモよりブドウの方が適すると考えられる。しかし,その他は地形の傾斜角度が急であることを考慮する必要がある。これらの結果は,将来,気温上昇により果樹の栽培適地の変化が生じた際に学術的な基礎資料として役立つ可能性があり,持続可能な農業の実現に繋がることが期待できる。

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