都市における建物を対象とした物質ストック・フローに関する既往研究は多くあるが,データ整備が制約となり建物の地下部分に相当する建物地下階の規模や分布は十分に考慮されていなかった。本研究では,東京23区を対象に,建物データと入居者データを用いて,2003年から2022年までの6時点における建物の地下部分に該当する建物地下階データを作成した。さらに,前後年の建物地下階データについて,建物形状と位置情報,属性情報をもとに同一性判定を行うことで,新築や滅失といった建物動態を考慮した経年建物地下階データを作成した。このデータをもとに建物地下階の空間分布と経年変化を分析した結果,地下階を有する建物は東京駅や新宿駅などの主要駅周辺に多く立地しており,千代田区,港区,新宿区,中央区,渋谷区の5区で,23区全体の建物地下階面積の約6割を占めている偏在性が明らかになった。また,建物地下階面積は2003年から2022年までの期間で40.8%増加しており,この増加には建築面積が大きくかつ地下階数の多い建物が増えたことが寄与したことが示された。さらに,メッシュ単位で集計した結果,東京駅周辺に建物地下階面積が顕著に多いメッシュが分布しており,23区の東部では点在していることが明らかになった。延床面積に占める地下階面積の割合は,23区において1.3~1.5%と小さい値ではあるが,地下階面積は約1,119万m2と広大であることから,建物地下階を含めた延床面積を使用することにより,建物ストック量は従前に比べ大きく推計されると考えられる。現地調査により精度検証を行った結果,フロア全体が地下駐車場として利用されている建物が,「地下階なし」と誤判定されていたことから,都市計画基礎調査や設計図等を参照した判定精度の向上が期待される。
繊維産業における全世界的な環境負荷の高さが指摘されている。GHG排出量の高さ,水利用の多さや水の汚染を伴いつつ製造がされている。また,生産国に大きな環境負荷がかかりつつも,消費する先進国に環境負荷はかからず公平性が担保されていない。本研究では繊維産業がもたらす外部不経済を内部化することを念頭に,多地域産業連関表EXIOBASEにより環境税を賦課した際の短期的な価格上昇率について分析を行った。環境税は炭素排出量に加え,水枯渇地域での綿栽培等が大きく環境負荷をもたらしているため,水利用に対し課税を想定して分析した。環境税の価格は,まず炭素税についてOECD(2016)を参考に¥4,000/CO2tとし,水利用の税は税収を炭素税と同額になるよう設定した。結果として,価格上昇は炭素税において平均で2.1%から3.4%,水利用の税は3.9%から4.6%となり,税収額はそれぞれ一定程度の税収が見込める。また,価格上昇による需要の変化率を求め,炭素排出量および水利用の削減量を分析した結果,3.1%(炭素)/3.6%(水)となった。今後も繊維産業は全世界的に拡大が見込まれる中,前述の削減量では2030年に2015年比で30%の削減量を目指すファッション気候変動憲章の目標には大きく及ばない可能性がある。繊維産業で環境負荷を軽減するためには,本研究が提示する環境税に加え,より強制的な手段によるアプローチ等を用いた統合的な対策を用いなければ困難である可能性が高い。また,他国の生産に依存し消費を享受する日本は,培った技術や企業の先行事例をもとに,生産国の技術支援による生産性の向上,生産工場のエネルギー効率改善等により,生産地の持続可能性に貢献できる可能性がある。これらの対策を検討することは喫緊の課題であり,産業の持続可能性を担保するためにも政策面での早急な対策が必要である。