抄録
物質量の絶対値は国際単位系(SI)にトレーサブルな測定によって得られると定義されている。しかし,環境分析において測定対象となる化合物は多種多様であり,計量計測学的に純度が証明された標準物質はほとんど流通していない。環境分析に応用されているクロマトグラフィーで正確な定量値を求めるためには,計量計測トレーサビリティが確保された純度値が決定された測定対象の標準物質が必須である。本研究では,環境中の多環芳香族炭化水素(PAH)類についてSIにトレーサブルな分析法を構築するため,定量核磁気共鳴法(定量NMR: quantitative NMR(qNMR))の一つであるAQARI(Accurate quantitative NMR with internal reference substance)法を応用した。AQARI法を応用することにより,科学的な根拠に基づいた,且つ,計量計測学的に信頼性を確保した純度値が求められる。定量用標準物質の代用品として使用される市販試薬製品18 種のPAH および水酸化PAH(OH-PAH)について,計量計測学的に信頼性の高い純度値を測定した。その結果,各市販試薬製品の純度は90.2±0.04~101.6±0.9%(arithmetic mean±RSD)と算出された。このことから,メーカー成績書の純度値より最大6.6%下回るものが認められ,メーカー成績書記載の純度値を質量%純度とし定量用標準物質として扱うことは適切ではない場合があることが示唆された。また,市販試薬製品の品質管理や使用時の純度が定量分析値の精度に大きく影響を及ぼすため,標準物質として使用する市販試薬製品の精確な純度の把握が重要であることが明らかとなった。