環境科学会誌
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一般論文
上海市の都市化が地域窒素収支に及ぼす影響の解析と対策提案
-社会経済要因を物質循環に結びつけて-
劉 晨林 良嗣安成 哲三
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2014 年 27 巻 5 号 p. 265-276

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抄録

本研究は,急速な都市化による人々の生活スタイル(食生活,家庭衛生設備,交通手段)と生産スタイル(農業,工業,サービス業など)の変化が,都市生態システムの窒素循環にどれほど影響を及ぼしているかを定量的に評価し,物質循環の視点から地域環境問題の診断・予防を行うことを目的とする。メガシティである上海市を一例として取り上げ,窒素収支モデルや産業連関分析や現地調査,統計解析などの学際的アプローチによって,農業,工業,家庭から水域へ流出する窒素負荷量の時系列変化を推定した。
その結果,(1)人為的反応窒素(化学肥料,大気沈降,生物窒素固定および移入食料・飼料)の平均合計投入は,1980年の3.28×105t-Nから,1990年には3.48×105t-Nに,2000年には3.55×105t-Nに増加したが,2008年には3.23×105t-Nに減少したこと;(2)陸域窒素負荷量に構造的な変化が発生し,化学肥料窒素が窒素負荷の最大要因であったものの,大気からの窒素沈降量と移入食料・飼料からの窒素投入量が年々増加し,地域窒素負荷源が化学肥料から大気沈降と食料・飼料の移入へシフトしたこと;(3)第二次産業からの排水による窒素負荷が90年代後半はピークに至ったが,2000年以降収まるようになったこと;(4)農地からの窒素流出量が減少した反面,都市部から水域への窒素流出量が増加したこと;(5)80年代には上海で生産した肉類や魚は同地域の消費量より多く,一部は域外へ移出していたが,90年代になると域外から移入することになったことなどが明らかとなった。
また,上海市のみを観察した場合には河川への潜在窒素負荷量は2000年以降減少傾向にあり,水質汚染問題は改善されているように見えるが,周辺地域を含む広範囲で考えると問題はむしろ拡大していると言え,新たな環境対策の提案が急務である。

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© 2014 社団法人 環境科学会
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