日本では1997年以来,業界団体が主体的に温室効果ガス削減のための計画(自主行動計画)を策定し,生産活動における排出削減に取り組んできた。20年に及ぶ取り組みの中で,自主行動計画の効果に関する研究の蓄積は,十分とは言えない。とくに,企業単位での効果については,入手可能な情報が限られていることから,分析が進んでいない。本研究では,業界団体が自主行動計画で果たしている役割に関する所属企業による評価に対し,自主行動計画のカバー率や市場における競争状況の影響を分析した。企業数カバー率,売上規模カバー率,市場での企業の競争状態の各指標の影響を,順序選択モデルによって企業規模別に定量評価したところ,規模の小さな企業において,カバー率が高くなるほど,あるいは市場が寡占状態に近づくほど,企業は業界団体の果たす役割を高く評価する傾向にあるという結果が得られた。このことから,自主行動計画のカバー率が高い場合や,市場占有率の高い企業が存在する場合には,業界団体と中小企業との協力関係を築きやすいという示唆が得られる。分析結果は,自主行動計画の機能は業界の構造に依存すると解釈することもできる。そのような解釈が正しい場合,全ての業界・団体が自主行動計画に取り組むよう促すより,業界の特性を見極め,業界団体の働きかけがうまく機能する業界を対象として自主行動計画を活用することが適切と考えられる。