2022 年 35 巻 4 号 p. 199-212
地域における脱炭素社会実現に向けた施策が拡がりつつある。地域スケールで施策を検討し,さらに社会実装へと展開していく場合,生活者目線を重視し,地域の特徴に応じた実現シナリオを作り上げ,生活者に「自分事」として共有してもらうことが重要である。本稿はこの課題に対し,滋賀県を対象に,2050年にエネルギー起源のCO2排出量「ネットゼロ」を目指すシナリオ作りを試みたものである。実際の政策の場において挙げられた,生活者目線での意見を基に,将来社会について定性的な記述を行った。それを基に,地域の社会経済構造およびCO2排出量を推計する数理モデルに,設定条件をパラメータとして入力することによって,定量的な社会記述を行った。この手法により,CO2排出量実質ゼロという,地域の生活者にとって決して関心が高いとは言えない目標と,日々の生活のあり方や地域課題といった,生活者目線での身近な関心事を結びつけることが可能となった。さらに,地域にとっての便益を定量的に示すことによって,作成したシナリオをより「自分事」として共有してもらう可能性を示した。