環境科学会誌
Online ISSN : 1884-5029
Print ISSN : 0915-0048
ISSN-L : 0915-0048
環境政策における公衆参加制度の日米の比較
早瀬 隆司
著者情報
ジャーナル フリー

2001 年 14 巻 5 号 p. 441-449

詳細
抄録
 環境の保全あるいは持続可能な開発のために解決すべき課題に対しては解決のための行動のみならず政策あるいは意思決定の過程に対しても公衆の参加あるいは関与の必要性が叫ばれている。ここでは,このような意思決定の過程に対しても参加やリスクコミュニケーションの制度が比較的早い時期から整備されてきた米国における制度の現状を把握し,その上でわが国の制度との比較を行うことにより公衆参加制度の導入のあり方や課題について考察した。具体的には,環境関連法制度における公衆参加制度,及び参加制度の背景にある社会文化的な背景,の二つの視点から両国の比較を行った。公衆参加制度の比較においては(1)国家レベルでの制度設計における意思決定の過程,(2)規則制定のための優先政策課題の設定の過程,(3)規則制定や改廃の過程,の3過程に着目して整理した。(3)の規則制定や改廃の段階においてはわが国においても閣議決定によるパブリックコメントの制度などによって比較的差がないと考えられるが,より早い段階でのあるいはより根幹的な部分での意思決定に近づけば近づくほど制度上の格差が目立つ。今後は,(1)の国家レベルでの制度設計の段階や,(2)の優先課題の決定の段階でのわが国における参加制度のあり方を考察することが重要な課題であるといえる。また,参加制度の社会的あるいは文化的背景についての考察の結果からは,参加制度を生み出すためのニーズについては日米の間に類似した状況が観察できるものの,参加制度を支えるための力については両国の間で際だった違いが存在している。つまり,わが国では公共的でオープンな場において議論をし価値付けをしていくような公衆や伝統が存在してこなかったという指摘である。今後はこのような違いを念頭に置きながら制度を整備していくことが必要であり,特に多様な市民層による「公衆関与を支えていく力」を育成していくことを念頭に置いた制度の検討が必要であると考えられる。
著者関連情報
© 環境科学会
次の記事
feedback
Top