抄録
環境試料の毒性モニタリングにおいては,簡便,迅速な前処理法の検討やトラブルシューティングを含め,普及を前提とした試験系の適正化・標準化が必要である。本研究では排水処理プロセスの遺伝子毒性モニタリング法としてumu試験の手法の検討を行い,実際の排水モニタリングに適用した。試験法の適正化では,標準物質を使用して,前培養後の菌体を濃縮し試料に投入するumu試験菌体濃縮法を検討し,試料添加量増大による高感度化,菌体量調整による精度ならびに操作性の向上を図った。従来,環境研究における試験管内での遺伝子毒性試験では,毒性物質群の検索研究や検出感度の問題の解決のために固相吸着による数百~数千倍の濃縮法が汎用されている。それに対し,本研究では化学物質分析を補完する第一次スクリーニング法としてumu試験を捉え,環境試料の前処理法に関する検討を行った。その結果,これらの固相吸着試料ではumu試験の操作上,懸濁物質に由来する吸光度の増大による偽結果の問題が起こりうることを指摘し,吸光度測定による濁度補正が必要かつ有効であること,また,普及ならびにより多くの物質の評価が目的であるとして簡易,かつ選択性の低い毒性検出には数十倍を上限とした減圧濃縮がより適していることを示した。さらに減圧濃縮,マイクロプレートを使用したumu試験菌体濃縮法による生活系排水処理プロセスの遺伝子毒性モニタリング結果から,排水中に検出される毒性が一般的な生物処理によって低減していることを示し,改善法の有用性を確認した。