環境科学会誌
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途上国援助における戦略的環境アセスメントの適用と課題
松本 悟
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2004 年 17 巻 4 号 p. 329-335

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抄録

 発展途上国の開発を支援する援助機関が,21世紀に入って次々と戦略的環境アセスメント(SEA)を事前の計画・調査に導入し始めた。その先陣を切ったのがワシントンに本部がある多国間開発金融機関の世界銀行である。1990年代に整備したセクター環境アセスメントや地域環境アセスメントを発展させて,2001年に制定した環境戦略に援助機関として初めてSEAを盛り込んだ。しかし,実際には,SEAが方法として確立していないことや,スタッフの能力・意思が欠けていること,あるいは他の援助実施機関との調整や,援助を受ける発展途上国側の制度など,様々な困難を抱えている。一方,世界第2の援助国である日本の場合は,SEAを導入する計画段階と,プロジェクトの実施段階で担当する組織が分断されており,世界銀行とは別の課題を持っている。慎重な代替案の検討が求められSEAが最も必要とされる社会基盤整備に多額の円借款を供与している国際協力銀行(JBIC)の場合は,計画段階の調査に使える資金源は限られており,かつ,発展途上国の政府が事業実施を決定した案件でないと関与できないため,SEAの導入は事実上不可能である。そうした中で,2004年4月,JBICに比べて開発の上流(計画)部分を担う国際協力機構(JICA)が,日本の援助実施機関として初めてSEAの考え方を盛り込んだ環境社会配慮ガイドラインを施行した。本論文は,こうした開発援助へのSEA導入をめぐる動向を解説し,日本の援助機関のSEA導入に伴う課題を分析した。

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