社会学研究
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論説
震災復興と集合的記憶
防潮堤の高さを巡る住民の論理
坂口 奈央
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2017 年 100 巻 p. 207-233

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抄録

 本稿は、震災からの復興まちづくりに住民が主体的に関与していく原動力の獲得には、地域資源を媒介とした集合的記憶と集合的アイデンティティの再構築が大きな意義をもつことを明らかにした。

 東日本大震災の津波被災地では、防潮堤の高さを巡る問題が復興まちづくりの基本的争点となった。このうち、岩手県大槌町赤浜地区は、県が提示した巨大防潮堤の高さではなく、震災前と同じ六・四メートルの高さを選択した。岩手県で震災前と同じ高さの防潮堤を選択した地域は、一三四ヵ所中二〇ヵ所にとどまる。なぜ赤浜地区は、防潮堤の高さについて震災前と同じ高さを選択したのか。赤浜地区の場合は、住民側の内在的要因として地域から見える蓬莱島の存在が大きく影響していた。

 津波被災地には、「おらほのもの」という言葉で表現される海にまつわるシンボル性をもつ地域資源が存在する地域がある。赤浜地区では、日常的生活実践を積み重ねながら生み出してきた蓬莱島に関する集合的記憶が形成されてきた。

 震災後住民は、津波に飲み込まれながらも無事だった蓬莱島に、復興への期待のシンボルとしての意識を高めた。また、避難所生活や復興まちづくりに関する議論を通じて集合的記憶が再編成されるとともに、「島の見える生活」を守るという、地域復興の目的を確認した。蓬莱島は住民にとっての集合的アイデンティティとなり、その結果、防潮堤の高さを選択する大きな要因となったのである。

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© 2017 東北社会学研究会
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