社会学研究
Online ISSN : 2436-5688
Print ISSN : 0559-7099
論説
医療過疎地域の在宅医療における医師の知の技法と地域ケアシステムの展開
ターミナル期のケアにおけるショートステイの活用から
相澤 出
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2018 年 102 巻 p. 147-169

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抄録

 本稿は、症例レベルでの医師の実践、他職種との連携に着目し、医療過疎地域における地域ケアシステムの展開過程と、それを可能にした条件を検討したものである。事例は、宮城県登米市における医師の実践であり、ターミナル期の症例におけるショートステイの活用に注目した。調査から、療養場所の確保が困難な患者への対応に始まり、家族の介護負担の軽減、患者と家族の生活の成り立ちの支援など、多様な事例の経験の積み重ねを通じてショートステイの活用の幅が拡がり、医療過疎地域におけるターミナル期の療養の場のひとつに位置づけられるまでの過程が明らかになった。そこには医師が患者と家族の生活の質(QOL)にこだわりつつ、地元で在宅の看取りを可能にする条件を模索する試みがあった。その模索のなかで、事例が内包した困難があえて引き受けられ、これが契機となり、制度のブリコラージュ的な活用がなされた。これにより、制度の柔軟かつ当地域での前例のない転用というかたちでの創造性の発揮と困難の克服がなされ、そこから多様な事例への適用が進んでいた。同時に、こうしたターミナル期のショートステイの活用を可能にした諸条件も確認された。こうしたケアの現場での創造性の発揮が、地域ケアシステムの自己組織的な形成、機能の向上の契機のひとつとなっている。

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© 2018 東北社会学研究会
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