2018 年 102 巻 p. 35-63
在来作物は戦前、全国どの地域でも当たり前に栽培され利用されていたが、戦後、生産性や市場価値の高い商業品種が登場すると、次第に姿を消していった。しかし二〇〇〇年ころを境に、再び全国で在来作物が見直されるようになった。筆者はそのころから、山形県の在来作物に関する調査研究や保全活動を始め、さまざまな業種の人々と関わってきた。本稿では、まず在来作物とは何かについて説明し、近年の山形県では在来作物をめぐるどんな動きがあったのか、人々が在来作物の栽培をやめたり、存続・復活したりする選択にはどのような要因が働いたのか、今後の課題について記述した。在来作物の消失には生産性や経済性を追求する価値観が働いた一方で、完全な消失をくい止めたのは、在来作物の美味しさや他者を喜ばせたいといった想いであることが分かった。さらに消失から復活に向かった背景には、お金に代えられない自然や地域や人とのつながりを重視する価値観が訪れたためと考えられた。