社会学研究
Online ISSN : 2436-5688
Print ISSN : 0559-7099
論説
学力の階層差と授業方法の関連
マルチレベル分析による検討
鳶島 修治
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2015 年 95 巻 p. 1-23

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抄録

 一九九〇年代前後の教育改革を主導する理念として提起された「新学力観」のもとでは、児童・生徒の「個性」や「主体性」、「創造性」の伸長が目標とされた。そこでは知識を「教え込む」従来の授業方法が否定的に捉えられ、教師には「支援者」として児童・生徒の主体的な学習に関与することが要請されるようになった。本論文では、こうした新学力観にもとづく授業方法の転換が中学生の学力や学力の階層差とどのように関連しているのかを検討する。二〇〇三年に実施された「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の日本調査データを用いてマルチレベル分析による検討を行った結果、生徒の学力水準や学力の階層差の大きさと学級レベルでの授業方法との間には明確な関連が見られないこと、先行研究で指摘されていた学力と授業方法の関連は、同じ学級に所属している生徒間での各タイプの授業の頻度に関する認識の相違に起因するものであることが示された。これまで、新学力観にもとづく教育改革によって学力の階層差の拡大がもたらされる可能性がたびたび指摘されてきたが、本論文の分析結果はこのような見方が必ずしも妥当でないことを示唆するものである。

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© 2015 東北社会学研究会
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