社会学研究
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論説
放射能測定と産消提携
宮城県南部の事例をもとにして
中川 恵
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2015 年 95 巻 p. 125-143

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抄録

 本稿は、宮城県の有機野菜生産者たちが始めた放射性セシウム測定活動の事例から、〈提携〉関係の再生をめぐり、彼ら生産者が直面する困難な状況を明らかにする。東日本大震災によって引き起こされた原発事故を契機として、食料の安全性確保は重要な課題となった。調査によって、有機野菜生産者たちが国の行う放射能測定によってではなく、自らの手によって安全性を証明しなければならないと考え、早期に測定体制を整えたことが分かった。それは、有機農業が国の安全基準や規制を批判的に捉え、自省的に厳しい安全性を追求する営みであったことに由来する。彼らは放射能測定においても「行政安全検査」が証明する安全性では納得せず、自らの手で確認できるまでの間は安全性が証明されていないと考えた。その後、測定が続けられているが、〈提携〉関係は回復していない。にもかかわらず、生産者はこのことを消費者の無理解によるものとは批判しない。なぜならば、〈提携〉関係において安全かどうかを決めるのは、国でも生産者でもなく、消費者自身だからである。そもそも〈提携〉関係とは食の安全という旗印を掲げた有機農産物を介した関係であった。生産者が〈提携〉を重視する程、〈提携〉関係の解消が必然的に生じるという逆説的状況がここには存在するのである。

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© 2015 東北社会学研究会
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