2016 年 98 巻 p. 9-42
本稿では、ポスト・パーソンズ時代に活躍したヨーロッパの社会学者のなかでU・ベックとN・ルーマンを取り上げ、「リスク・機能分化・個人化」に関して二人の理論を比較しながら、その理論的意義と残された課題について検討する。個人化に関しては、現代社会において個人が社会的再生産の単位になったとするベックの個人化論と、社会と個人の相互自律性を説くルーマンのシステム論が親和的であるという一般的な解釈を批判的に吟味し、客観的次元における個人化の進行が主観的次元における「アイデンティティの流動化と集合化」をもたらしている可能性を指摘した。次いで、ベックとルーマンのリスク論のなかで明示的に語られてこなかった論点として、リスク管理を中核に据えようとするガバナンス改革が現代社会のなかで進行していることを説明した。最後に、ベックのサブ政治論とルーマンの分化論に言及しながら、現代社会で進行している変化や改革が機能分化の変容を引き起こしていることを示した。