2017 年 99 巻 p. 181-205
本稿は北イタリア発祥の「スローフード運動」がいかに日本で受け容れられ、独自の展開を遂げているかを山形県の事例から明らかにする。スローフード運動は、希少作物や生産者の保護、味覚教育などを標榜し、世界各国で展開されている。日本でも地域毎に活動がおこなわれており、地元固有の食材の保存や調理法の見直しが企図されている。
スローフード運動を記述し、分析するために、本稿では「ライフスタイル運動」の観点を導入する。社会運動は一過性の非日常的な政治的闘争でありながら、一方で日々のライフスタイルの選択の積み重ねと連続していることがライフスタイル運動の観点から指摘でき、先行研究ではスローフード運動も考察の対象となっている。
本稿が事例とする山形県では、生産者のみならず、製造者や料理人、行政、映画監督などが結びつくことでスローフード運動が展開されている。特に、地域固有の「在来作物」を発掘し、それらを活かす料理人や漬け物業の存在は、山形の事例を強く特徴付けている。在来作物を介して、スローフードというシンボルにより多様なアクターを結びつけ、自前のローカリティをさらに掘り起こすことに貢献したのが、山形のスローフード運動である。