抄録
本研究では、出来事中心性(ある出来事が、その人のアイデンティティやライフストーリーにとって、どの程度中心的であるか)と、ロールフルネス(日常生活における持続的な役割満足感)との関係を調査した。大学生活におけるポジティブなライフイベントとネガティブなライフイベントの両方において、出来事中心性とロールフルネスの間に関連があるという仮説を立てた。さらに、この関連はポジティブなライフイベントにおいて、より高くなると予想した。大学生活で経験したポジティブなライフイベント(CES-P)とネガティブなライフイベント(CES-N)に関する出来事中心性尺度と、社会的ロールフルネス因子と内的ロールフルネス因子からなるロールフルネス尺度を用いて、208名の日本人大学生に質問紙調査を実施した。相関分析の結果、両イベントにおける出来事中心性は、社会的ロールフルネス、内的ロールフルネスと正の相関を示した。CES-PとCES-Nをそれぞれ統制した偏相関分析では、CES-Nに比べ、CES-Pがロールフルネスと強い相関を示した。ポジティブな出来事とネガティブな出来事を思い出し、自分のアイデンティティやライフストーリーにおけるその中心性を考慮することは、ロールフルネスの促進に寄与する可能性があり、この関係はポジティブな記憶において顕著であることが示された。