史学雑誌
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近世地方都市・宇都宮にみる古着流通
沢屋宗右衛門・丸井屋伊兵衛を例に
寺内 由佳
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2020 年 129 巻 6 号 p. 49-73

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抄録

本稿では宇都宮城下の古着商人・沢屋宗右衛門(沢宗)と丸井屋伊兵衛(丸伊)を対象に、各々の経営をふまえ、仕入れと販売の面から取引を分析・比較することで、宇都宮という地方集散地における古着流通の有り様を明らかにする。
   城下の古着仲間内で行われた直接取引では両者に特徴的な様相はみられないが、城下外の諸所との仕入れ・販売取引では差異が明らかであった。
   仕入れの面では、丸伊は文化期末から積極的に江戸へ赴き、呉服・太物類を扱う問屋と取引をした。さらに足利から結城にかけての織物生産が盛んな地域で、払物や仕立て直し品を含むとみられる商品を仕入れた。ここでは前貸しによる委託という問屋的性格もみられ、当地域での取引が経営の成長に繋がったと考えられる。一方沢宗は江戸以外の地域へ出向いた様子はなく、江戸商人との取引も顕著なのは文政期初頭までとなり、太物の扱いが主という傾向もみられた。質屋を兼業したため、城下や在方を含む近隣地域から持ち込まれ、質流れとなった品を扱ったとみられる。
   販売の面では、沢宗は城下の武家、仙台から南東北の大小様々な城下町・宿場、そして城下近隣から野州南西部、常州西部にまで及ぶ在方から多くの者が訪れた。多様な階層の幅広い需要に応える品揃えの小売店という性格がうかがえる。一方丸伊は今市や東北南部の、ある程度規模の大きな城下町・宿場の商人との取引が顕著であり、上質な品を中心に扱い、同業者が仕入れ目的に訪れる店という性格がうかがえる。
   両者の仕入れ・販売取引から、宇都宮という地方集散地が持つ性格、中央市場とは異なる周辺地域や遠隔地との関わり、古着という商品の特徴が反映された売買の具体的な様相も明らかになる。宇都宮を中心として形成される商品流通圏の中に、各々の商人が選択・開拓した取引関係によって成立する流通経路が存在するのであり、両者の差異は古着という商品がもつ緻密な流通構造を示す。

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