抄録
新潟-山形県境にある金丸鉱床は,カリ長石を生産する日本最大のペグマタイト鉱床であるが,それに対する研究は1967年以前に2報告あるのみで,鉱床の性格はよくわかっていなかった.鉱床は‘小川型’花崗岩地域に位置するが,各種の細粒花崗岩類と共に産出する.これら花崗岩類は白亜紀後期の年代(81.5Ma)を有し,すべてチタン鉄鉱系に属する粗粒黒雲母花崗岩,細粒黒雲母花崗岩,細-中粒両雲母花崗岩,アプライトからなる.
XRF分析によるとこれら花崗岩類は日本の平均値に較べてK2O,P2O5に富み(SiO2 73.7%で0.6%増),ΣFe2O3,MgO,CaOに乏しい傾向を示す.また,Rbに富み,Rb/Sr比は粗粒黒雲母花崗岩0.3-1.6,細粒黒雲母花崗岩0.9-1.1,両雲母花崗岩15-52,ペグマタイト68以上で,この順にマグマ分化作用が進んでいると言える.黒雲母はFeに富み,両雲母花崗岩中でFe/Mg≒10,ペグマタイトではFe/Mg<19であり,分化と共にFeに富む傾向を示す.柘榴石はアルマンディン/スペッサルティン系で,両雲母花崗岩ではFe/Mn≒3,結晶縁でMnにやや富む場合があり,ペグマ
タイトではFe/Mn=2.3~6.0,周縁部でMnに富む.
鉱床はE-W軸を持つラグビー球状で,最大N80°W260m,N10°E110m,深度130mの規模を持つ.鉱床は‘文象ペグマタイト相’を持たず,鉱体内でも組織や構成鉱物の種類における同心円的累帯配列が認められない.鉱床は露頭部では直径5~7cm以下のカリ長石および少量の石英の集合体からなる.代表的なカリ長石はOr66.6%,Ab33.0%,An0.4%からなる.ペグマタイト中のカリ長石の三斜度(△)は0.71~0.80で著しく高い.
同様に高いものは母岩では両雲母花崗岩で認められる.花崗岩質マグマが白雲母-黒雲母あるいは黒雲母花崗岩として晶出する場合に前者が‘水’の分圧が高い環境で生成したことが考えられる.KAlSi3O8-NaAISi3O8-SiO2-H2O図上においても白雲母-黒雲母花崗岩がalbite端側に,粗粒黒雲母花崗岩がSiO2端側に分布し,この解釈を裏付ける.金丸ペグマタイトにおいては固結時とそれに引続く時期に何らかの原因で‘水’が存在し,それがカリ長石中のAl-Si秩序化を促進せしめたものと思われる.