歯科医学
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学位論文の内容要旨および論文審査の結果要旨
ラット肝由来N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼアイソザイムの糖尿病による変動 (大阪歯科大学大学院歯学研究科博士論文内容要旨および論文審査結果要旨)
三輪 昌義
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1990 年 53 巻 1 号 p. g53-g54

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抄録

N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼには, いくつかのアイソザイムの存在が確認されている. また最近では, 病態時にアイソザイムの一部が欠損したり, アイソザイム比が変動したりすることが指摘されるようになり, 代謝異常の解明や臨床診断に有効な指針を提供しつつある. しかし, 糖尿病時のアイソザイムについては, 顎下腺と血清を対象に検討が加えられているにすぎない. 本研究は, 糖尿病ラットとインシュリン処置糖尿病ラットを用い, 糖代謝の中心臓器である肝臓から本酵素を分離精製し, 各画分の等電点電気泳動, ポリアクリルアミド電気泳動, 分子量の測定および生化学的性状の分析などから糖尿病に伴う本酵素アイソザイムの変動を明らかにしたものである. その結果, 次の所見を得た. 1. イオン交換クロマトグラフィーによって, 対照群とインシュリン処置群はF-IとF-IIの2画分に, 糖尿病群はF-I, F-IIおよびF-IIIの3画分に分離された. また活性分布のF-II/F-I比は, 糖尿病群ではF-I画分の著明な増加とF-II画分の減少により対照群の値の1/2に低下したが, インシュリン処置群では対照群の値に回復する傾向を示した. 2. ディスク電気泳動により, 3群ともF-I画分は低移動度のバンド, F-II画分はそれより高移動度のバンドに分離され, 糖尿病およびインシュリン処置による影響は認められなかった. 3. 等電点電気泳動により, 対照群のF-I画分はpI7.7と8.5に分離され, F-II画分はpI3.8に等電点ピークを示したが, 糖尿病群およびインシュリン処置群では両画分ともアイソザイムの多形性の発現を示唆する分離像を呈した. 4. F-IおよびF-II画分の基質親和性と分子量には, 糖尿病およびインシュリン処置の影響は認められなかった. 5. 至適pHは, 3群ともF-I画分ではpH4.3, F-II画分ではpH4.1と4.5を示したが, そのうち, F-II画分の酵素活性は糖尿病下でpH4.5に偏在する傾向を示した. 6. F-I画分の熱安定性は, 3群ともF-II画分より高く, F-I画分はアイソザイムB, F-II画分はアイソザイムAであることが確認された. これらの所見から, 糖尿病による高血糖の影響はラット肝N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼアイソザイムに変動を与え, その変動の回復にはインシュリンの作用発現が大きく関与するものの, インシュリンの作用は酵素タンパク質の完全な回復までには効果を示さないことが明らかになった.

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© 1990 大阪歯科学会
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