歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
上顎洞疾患の超音波診断に関する研究 : とくに嚢胞性疾患について
田幡 治
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1990 年 53 巻 4 号 p. g13-g14

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抄録

上顎洞疾患の超音波診断の有用性について, 臨床例および模型実験により検討を加えた. 対象は正常者21名 (40側), 術後性上顎嚢胞80名 (82側), 歯原性嚢胞20名, 上顎洞炎21名 (22側), 上顎癌1名である. 超音波診断 (Aモード法) は, 周波数4MHz, プローベの直径13mmのATMOS社製Sinuscope SIN II-Sを使用した. 143名の超音波所見をX線所見, 手術所見と比較し, 以下の成績を得た. 1) 正常上顎洞では, 超音波ビームは洞内の空気によりすべて反射され, 洞内および洞後壁からのエコーは出現せず, 初期エコーのみが現われた (N型)。正常者のN型出現率は82.5% (33/40) で, 17.5% (7/40) がfalse positiveであった. 2) 嚢胞性疾患の典型的な超音波所見は, 初期エコーと洞後壁との間に嚢胞前壁と嚢胞後壁の2つのエコーが現われた (C型)。術後性上顎嚢胞の診断率は, 断層X線所見で92.7% (76/82), 超音波診断で84.1% (69/82) であり, 15.9% (13/82) がN型を示しfalse negativeであった. 歯原性嚢胞の診断率は単純X線所見30% (6/20), オルソパントモグラム95% (19/20) であった. 超音波診断では90% (18/20) であり, 10% (2/20) はfalse negativeであった. 3) 上顎洞炎では, 粘膜肥厚および貯留液が存在する場合には, 初期エコーに続いて後壁エコーが現われた (E型). 粘膜肥厚のみで貯留液が存在しない場合には, 粘膜エコーのみが出現し後壁エコーは現われなかった (M型). 上顎洞炎の診断率は77.3% (17/22) であった. 4) 上顎癌の1例では, 初期エコーに続いて不規則エコーが出現した (T型). 5) 臨床例について検討を加えた結果, 正常者の中にfalse positiveを示す場合のあること, また病変を有する患者の中にfalse negativeを示す場合があり, 超音波診断における問題点であると考えられた. これらの原因を解明するため, 模型実験を行った. 洞底に僅かな分泌物あるいは粘膜肥厚があれば後壁エコーが現われる. 嚢胞と前壁の間に含気腔が存在すればN型を示す. 曲面である嚢胞壁や洞後壁では超音波ビームが入射する角度によって嚢胞エコー, 後壁エコーが現われないことがある。これらがfalse positive, false negativeの一因であると考察した.

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© 1990 大阪歯科学会
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