歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
口腔内から体性感覚入力を受ける視床後内側腹側核ニューロンの大脳皮質投射について
長谷川 彰則
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1991 年 54 巻 2 号 p. g61-g62

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抄録

ネコの視床後内側腹側核に対する解剖学的研究によって, 三叉神経主知覚核腹側部と三叉神経脊髄路核とが対側の固有部に, 三叉神経主知覚核背側部が同側の小細胞部外側部に, また腕傍核が同側の小細胞部内側部にそれぞれ投射していることが明らかとなり, 現在では小細胞部内側部が味覚入力の, また固有部の内側および小細胞部外側部が口腔内からの体性感覚入力の中継に関与することが判明している. そこで, ウレタン・クロラローズで麻酔したネコを対象として, 舌および歯根膜への機械的刺激によって興奮するニューロンを後内側腹側核がら検出して, これらのニューロンの刺激に対する反応を明らかにするとともに, 後内側腹側核における舌および歯根膜ニューロンの大脳皮質への投射を調べて, 口腔内からの体性感覚入力の高位中枢での機能的意義について検討した. なお, 単一二ューロン活動の細胞外電位の導出には, 2% pontamine sky blue含有の0.5M酢酸ナトリウム溶液を充填したガラス毛細管微小電極を用いた. また, ニューロン活動の導出部位は, 色素を電気泳動的に注入して標識し, 組織学的に確認した. 末梢受容野への刺激には, 機械的刺激と鼓索神経を切断して舌からの味覚性入力を遮断した舌神経ならびに歯根膜に対する電気刺激とを用いた. 得られた結果は, 以下のとおりである. 対側の舌神経電気刺激の場合は, 従来から知られているSI, SIIおよびSIIIから, また同側の舌神経電気刺激の場合には, SIIのほか大脳皮質腹側冠状回から, 大脳皮質誘発電位を記録した. 小細胞部外側部から記録された大多数のニューロンは同側の舌への, また少数のニューロンは同側の歯根膜への機械的刺激にそれぞれ反応した. 対側の舌, 舌以外の口腔粘膜あるいは歯根膜への機械的刺激に反応するニューロンは, 小細胞部外側部に隣接する固有部の内側から検出された. 小細胞部ニューロンは, 冠状回の舌投射野に電気刺激を加えると, また固有部ニューロンは, 大脳皮質の1次体性感覚野 (SI) に電気刺激を加えるとそれぞれ逆方向性に興奮した. また, 同側の舌神経電気刺激によって, 一次反応としての陽性誘発電位を記録した冠状回眼窩面に電気刺激を加えると, 咀嚼運動に類似した開口運動が認められた. すなわち, 同側の口腔内からの体性感覚入力は小細胞部外側部で中継されて冠状回眼窩面に投射し, また対側のものは固有部の内側で中継されて大脳皮質の1次性動感覚野に投射していることが証明された. とくに, 冠状回眼窩面の咀嚼運動に対する強い関連性から, 同側の口腔内からの体性感覚入力は咀嚼運動の調節に寄与するものであると考えられる.

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© 1991 大阪歯科学会
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