歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
象牙質強化剤がコンポジットレジンの接着安定性におよぼす影響について
山本 一世
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1991 年 54 巻 2 号 p. g69-g70

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抄録

コンポジットレジンのエナメル質に対する接着は, 現在のところ酸処理することにより比較的満足のいく結果が得られているが, 象牙質に対してはかなりの程度まで接着が可能になったとはいえ, いまだ信頼するに足る成果が得られていない. これは, 象牙質がエナメル質と異なり, その構成々分中にコラーゲンを主体とする有機質を2割程度含有するため, エナメル質と同等の酸処理を行うとその有機成分が変性し, 被着体である象牙質に経時的な劣化が生ずることが主な原因と考えられている. そこで, 酸処理による象牙質への侵襲を抑制し, コンポジットレジンの接着性を向上, 安定させる目的で以下の実験を行った. 象牙質の強化能を有するとされている5種の薬剤をウシ象牙質に10分間あるいは24時間作用させたのち, 2種の酸ならびにボンディング剤を用いてコンポジットレジンを接着させ, 最長6か月にわたり37℃の水中に保存して接着値の経時的変化の測定および試験後の破断面でのSEM観察を行った. 使用した象牙質強化剤は2%タンニン酸 (TA), 25%グルタルアルデヒド (GA), 0.5%塩化第一白金酸塩 (Pt), 8%フッ化第一スズ (Sn), 3.8%フッ化ジアンミン銀 (Ag), 酸エッチング剤は10%クエン酸-3%塩化第二鉄溶液 (10-3) および38%リン酸ゼリー溶液 (KE), ボンディング剤は4-META/MMA-TBB系のSuperbond D-Liner (DL) およびリン酸エステル系のClearfil Photo Bond (PB) である. 実験結果 1. 象牙質強化剤を使用しないものでは, いずれの酸処理剤, ボンディング剤の組み合わせにおいても接着値の経時的な低下が認められ, SEMによる破断面の観察から, 主に被着体である象牙質の劣化に起因すると考えられた. 2. TAは24時間作用させた場合に10-3処理群において接着値の安定性に対する効果が認められ, SEM観察によっても象牙質の劣化の抑制が認められた. KE処理においては効果を認めなかった. 3. GAは10分間, 24時間いずれの作用時間においても接着値の向上や安定性に対する効果, および象牙質の劣化の抑制が認められ, 特に24時間作用群の方が顕著であった. 4. Ptは作用時間, 象牙質処理の違いにかかわらず, 接着値, 象牙質の劣化のいずれに対してもほとんど効果を認めなかった. 5. Snは10-3処理した場合にリン酸エステル系モノマーの接着性促進によると考えられる効果が認められた. また, 10-3, KEいずれの酸処理においても象牙質の劣化の抑制がみられたが, 作用時間の影響は判然としなかった. 6. Agは10-3, KEいずれの酸処理においても24時間作用させた場合に接着値の向上, および象牙質の劣化の抑制が認められた. 7. 全体的に, KE処理したものは10-3処理したものに比べて接着値が低く, 個々のバラツキも大きかった.

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© 1991 大阪歯科学会
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