歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
ローリング法およびスクラッビング法における高齢者の歯みがき動作の特徴およびその刷掃効果を高める方法
光安 正守
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1992 年 55 巻 2 号 p. g101-g102

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抄録

高齢者に成人におけるブラッシング指導法を応用しても, その刷掃効果は成人におけるほどは上がらないことが多い. そこで, その原因を究明し, 刷掃効果の上がる指導法を考究する目的で, 刷掃効果を左右し, かつ歯みがき動作に関与している諸因子のうち, 歯みがき動作の巧拙, 歯みがき圧, 握力, 歯根膜および歯肉の触覚の閾値ならびに手や腕の筋の活動電位を指標に, ローリング法およびスクラッビング法の特徴を, 高齢者 (6名, 年齢 : 65〜85歳) と成人 (6名, 年齢 : 22〜30歳) とで比較検討した. なお, 歯みがき動作の巧拙および歯みがき圧の大きさは, 頚部に三軸ストレインゲージを貼付した歯ブラシを用いて, 刷掃時に生じる3方向のひずみを分析して求めた. 握力測定ならびに歯根膜および歯肉の触覚の閾値の測定には, それぞれ握力計およびエステジオメーターを用いた. また, 短母指屈筋, 橈側手根屈筋, 円回内筋, 上腕二頭筋および三角筋について, 刷掃時の筋電図を記録した. 得られた結果および結論は, 次のとおりである. 高齢者では成人に比べてローリング法およびスクラッビング法の各刷掃術式に基づいて正しく刷掃することはきわめてむずかしかった. とくに, ローリング法では歯ブラシの回転が不十分であり, スクラッビング法では小刻みな振動動作を行うことは困難であった. 高齢者における歯みがき圧は, 成人における値に比べて低い, もともと大きな歯みがき圧を必要とするローリング法ではとくに低い, このことは, 筋力の低下に関連している. 事実, 高齢者の握力は, 成人における値に比べて明らかに低かった. ローリング法において, 成人では歯根膜や歯肉の触覚の閾値の高い者のほうが低い者よりも歯みがき圧は大きいが, 高齢者では閾値が高いにもかかわらず歯みがき圧は小さい. このことは, 高齢者においてローリング法における歯みがき圧を低下させている直接の原因が歯根膜や歯肉の触覚の閾値にあるのではなくて, 筋力 (とくに握力) の低下であることによる. なお, スクラッビング法 (もともと歯みがき圧が小さい) では, 歯みがき圧の大きさと歯根膜および歯肉の触覚の閾値との相関性は高齢者においても成人においても認められなかった. ローリング法においては, 高齢者では指や肩の筋 (短母指屈筋および三角筋) の, 成人では腕 (とくに上腕) や肩の筋 (円回内筋および上腕二頭筋ならびに三角筋) の活動が著明である. これに対して, スクラッビング法においては, 高齢者では指の筋 (短母指屈筋) の, 成人では指や前腕の筋 (短母指屈筋および橈側手根屈筋) の活動が著明であった. また, 高齢者では, 両刷掃法の動作が規則正しく行われていないことを示す筋電図が得られた. すなわち, 高齢者では, それぞれの歯みがき方法に関与する手や腕の筋を効果的に利用できないことが証明された. 以上, 高齢者は成人に比べて, 歯みがき動作に対する適応能力は劣る. しかし, ブラウン管オッシログラフに記録される自己の歯みがき圧 (適正値 : ローリング法 ; 600〜800g, スクラッビング法 ; 300〜400g) および歯みがき動作を矯正しながら反復練習するという成人で成功した刷掃訓練方法を高齢者に対して応用すると, 歯みがき動作を改善することが可能であり, 高齢者の刷掃効果を高めることができることを証明した.

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© 1992 大阪歯科学会
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