歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
ヒト無髄歯における歯根表面の走査電子顕微鏡的研究
密田 亨
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1996 年 59 巻 3 号 p. 4-5

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抄録

歯髄組織を喪失した歯は"死歯"と考えられがちである. しかし, 無髄歯でもセメント質は本来の機能を停止するものではなく, 歯根膜組織のシャーピー線維がセメント質内に貫入してその機能を果たし, 歯根表面ではセメント芽細胞が生命活動を営み, セメント質は歯根周囲組織と密接に関係を保ち続けている. したがって, 根尖部セメント質の状態は根尖歯周組織環境を如実に現わしているものと考えられる. 今回著者らは, 根劣性歯周組織疾患罹患歯および歯内療法的に健全と思われる無髄歯の歯根表面を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察し, これら無髄歯の根尖表面の状態と, 疼痛および腫脹などの臨床的既往との関連性, エックス線所見との関連性, さらに根管充填の状態との関連性について検索を行った. 材料および方法 材料(被験歯): 保存が不可能と診断され抜去された無髄歯を材料とした. 対照には咬合を営む有髄歯で, 矯正的理由により抜去された歯を用いた. 被験歯の分類: 臨床的不快症状の既往の有無ならびに根尖部エックス線透過像の有無さらに, エックス線的根管充填の良否について分類した. 観察部位: 単根歯では頬(唇)側面, 舌側面, 近心面および遠心面, さらに複根歯では分岐部側に位置する歯根面を分岐部側面として, 被験歯の根尖1/3部をSEMで観察した. なお, 吸収の程度を判定するために, 各観察面における吸収面の占める割合によって1から3のスコアーを与えχ^2検定を用い比較検討した. 試料の作製: 抜去歯を10%中性緩衝ホルマリン溶液にで固定し, 固定完了後根尖1/3を切断し, これを試料とした. この試料を5%次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬して歯根表面の軟組織を溶解除去し, 脱水および中間液として酢酸イソアミルで置換を行い, 臨界点乾燥後 Auあるいは Pt coatingを行い走査電子顕微鏡にて観察した. 結果および考察 1.被験歯根の吸収の程度は, 単根歯では危険率5%で有意に頬(唇)側面の吸収が著明であった. 複根歯では, 分岐部側面の吸収が危険率5%で有意に遠心面より著明であった. 2.臨床的に不快症状の既往を有する被験歯では, 根尖部透過像の有無にかかわらず, 比較的広範囲に吸収窩が認められた. これら吸収窩の辺縁は鋭利なもの, あるいは不明瞭なもの, また窩底に顆粒状構造物を有するもの, 線維状構造物が存在するもの, さらに比較的平坦な様相を示す窩底を有するもの, などが混在していた. 3.不快症状の既往および透過像が認められなかった被験歯においても吸収窩は存在した. しかし, 吸収窩窩底には顆粒状構造物を有するものが多かった. 一方, 透過像を有する歯では, 複雑な形態を示す吸収窩が存在した. 4.吸収窩の多くは主根尖孔の近くに存在し, 過剰根管充填歯ほど, 広範囲に吸収窩が認められた. また, 根尖孔辺縁は比較的正常な様相を呈しているにもかかわらず, その周囲に鋭利な辺縁を有する吸収窩が存在するものがあった. 5.対照歯にも小さな吸収が認められ, 吸収窩窩底に, 小さな顆粒物質が認められるものと, とくにこのような構造物が認められない吸収窩が存在した. 以上の結果から, 根尖性歯周組織疾患罹患歯では, 根尖1/3部歯質に活発な吸収を示す吸収窩が多くみられ, 臨床的不快症状の既往やエックス線透過像を認めたものでその傾向は顕著であり, 逆に, 不快症状や透過像を認めなかったものでは吸収窩に新生セメント質の添加を示す傾向が明らかであった.

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© 1996 大阪歯科学会
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