歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
食物の物性がラット頭蓋底の成長に及ぼす影響
野田 真
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1997 年 60 巻 2 号 p. g48-g49

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抄録
頭蓋底の成長は, 咬合および歯列を含む顎顔面部の形態形成に重要な役割を果たすと考えられている。したがって, 頭蓋底の成長に影響を与える要因を研究することは, 歯科矯正学的に極めて重要である。一般に, 頭蓋底は遺伝的要因によって成長がコントロールされていると考えられているが, 最近, 頭蓋底そのものも環境的要因から影響を受ける可能性が示唆され, 口腔の機能が関係するとも考えられている。その一つに咀嚼が挙げられる。近年, 生活様式の進歩にともない, 摂取食物は軟食化の傾向にあるといわれており, 実験的にも, 動物を軟性飼料で飼育すると, 顎骨や咀嚼筋の発育が遅れること, 顔面頭蓋の成長方向が変化すること, さらには頭蓋全体の成長にも影響が及ぶことが確認されているが, 頭蓋底を検索した報告はみあたらない。本研究では, 食物の物性の違いが頭蓋底の成長に及ぼす影響を調べる目的で, 成長期のラットを用いて検索した。実験方法: 60匹の2週齢F 344/DuCrj系雄性ラットを無作為に固形飼料飼育群と液状飼料飼育群とに均等に分けた。実験は2週齢にて開始した。飼育期間中, 蝶形骨底部の骨添加の動態を記録するために, 42日齢にテトラサイクリン, 54日齢にドータイトカルセインを背部皮下に注射した。観察時期は8週齢とし, 頭部X線規格写真による頭蓋形態および組織学的骨形態計測による蝶形骨底部の骨添加様相について調べた。結果および考察: 頭部X線規格写真分析の結果, 両群において, 蝶形骨と後頭骨の長さに違いはみられなかったが, それぞれのなす角度が異なっていた。頭蓋底は蝶後頭軟骨結合部にて屈曲したと考えられる。また, 液状飼料飼育群の下顎高の位置は, 脳頭蓋の前後径の中で前方に位置していた。このことは, 固形飼料摂取時には顎関節部に大きな負荷が加わるのに対して液状飼料摂取時には咀嚼をほとんど必要としないと報告されていることから, 顎関節部に加わる機能力の違いが関係していると考えた。組織学的骨形態計測の結果, 固形飼料飼育群および液状飼料飼育群ともに, 蝶形骨底部の骨添加率は, 前方部の方が後方部よりも大きかったので, 蝶形骨底部は前上がりの回転成長をしたものと考えられる。このことは, Vilmannが頭部X線規格写真を用いて成長期ラットの頭蓋底を調べた研究と一致する。また, 群間の骨添加率を比較すると, 液状飼料飼育群は, 蝶形骨底部の前方部と後方部において有意に小さく, また, その前後比も小さかったことから, 液状飼料飼育群の蝶形骨底部は固形飼料飼育群と比べて, 前上がりの回転成長が小さかったものと考えられる。以上のことから, 成長期ラットにおける食物の物性の違いは, 頭蓋底の前後的な成長変化よりも垂直的な成長変化と関係があることが示唆された。
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© 1997 大阪歯科学会
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