歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
多形核白血球およびマクロファージの機能に及ぼす環境因子の影響について
羽竹 豊
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1997 年 60 巻 2 号 p. g54-g55

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抄録

近年, 歯周病の進行に伴い歯周ポケット内でグラム陰性菌が増加することが指摘され, これらの細菌が歯周病の起炎菌として注目されている。そのグラム陰性菌の細胞壁構成成分であるLipopolysaccharide (LPS)は血管に対する作用, 細胞障害作用, アジュバント作用など多くの生物活性を有していることから歯周病の発症と病態の進行に関与することが報告されている。また歯周組織の炎症が進行し, 歯周ポケットが形成されるにつれて嫌気性菌の増加がみられることから, ポケット内部の環境は低酸素状態であり, 歯周ポケット内の溶存酸素濃度は低下していると考えられる。一方, 多形核白血球(PMN)およびマクロファージ(PMN)などの食細胞は, 細菌などの異物に対し, 遊走, 貪食, 殺菌といった一連の機能を有し, 宿主の生体防御機構において重要な役割を担っている。PMNおよびMφは歯周組織における防御機構の最前線の場である歯肉溝に滲出し, 炎症の進行とともにその数が増加すること, PMNの数や機能に異常のある患者に重度の歯周炎が認められることなどから, 歯周組織における食細砲と歯周病の関連が示唆されている。したがって, 食細胞機能に影響を及ぼすと考えられる環境因子について検討することは, 歯周病の発症と進行のメカニズムを解析するうえで非常に重要であると考えられる。そこで本研究では歯周病の発症と進行のメカニズムの一端を解明する目的で, PMNおよびMφの機能が歯周病関連細菌由来のLPSとこれら細胞が存在する環境中の溶存酸素濃度の変化によりどのような影響を受けるのかを検討した。LPSは温フェノール・水抽出法に準じて, Porphyromonas gingivalis (P. g), Capnocytophaga ochrachea (C. o), Fusobacterium nucleatum (F. n)およびActinobacillus actinomycetemcomitans (A. a)より抽出, 精製したものを使用した。各LPS標品の生物活性の指標としてエンドスペシーを用いたリムルステストを行い, Escherichia coli (E. c)由来のLPSと比較検討した。また細胞培養液中の溶存酸素濃度は, 0.87, 1.35, 2.28および3.78 ppmに調整した。PMNおよびMφは, グリコーゲンで誘導したマウス腹腔滲出細胞より分離した。これら食細胞の機能のうち遊走能と貪食能を測定した。P. g, C. o, F. nおよびA. a由来LPSのリムルス活性の測定値はそれぞれ0.060, 0.094, 0.074および0.121 EU/mlであった。また対照として用いたE. c由来LPS では0.124 EU/mlであった。PMNおよびMφの遊走能, 貪食能はともに, 濃度(2〜10μg/ml)に違いはあるものの, 各LPSにより有意に抑制された(p<0.01)。この抑制の程度は, 各LPS 標品のリムルステストによるエンドトキシン活性の値に比例した。また溶存酸素濃度が減少するに従って, PMNおよびMφの遊走能, 貪食能は低下し, 0.87 ppmにおいてそれぞれの機能は, 3.78 ppmと比較して有意に減弱した(p<0.01)。これらのことから, 歯周病関連細菌由来のLPSおよび細胞が存在する環境中の溶存酸素量の減少が, PMNおよびMφの機能に影響を及ぼすことが示唆された。

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© 1997 大阪歯科学会
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