歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
下顎歯肉扁平上皮癌に対する放射線照射と化学療法の併用による導入療法の効果に関する研究
杉立 光史
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1997 年 60 巻 3 号 p. g9-g10

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抄録

下顎歯肉扁平上皮癌に対する治療は手術が主体となっているが, 術前療法の一つとして行われている放射線外部照射とブレオマイシン(BLM)またはペプロマイシン(PEP)の併用により, 腫瘍の著明な縮小効果を得ることができ, この導入療法のみで腫瘍が消失し, 手術を行わなくても再発することのない症例が存在することがわかってきた。そこで本導入療法の効果について, 臨床的, X線学的および組織学的に検索するとともに, その有用性について研究した。研究対象 : 1978年から1996年までの19年間に大阪歯科大学口腔外科第2科, およびその関連病院にて治療を行った下顎歯肉扁平上皮癌のうち, 導入療法を施行した67例を対象とした。これらのTNM分類はT1:5例, T2:35例, T3:14例, T4:13例, そしてN0: 22例, N1: 39例, N2: 5例, N3: 1例であり, 全例M0であった。導入療法は放射線外部照射, 合計30Gy/15回/3週, また化学療法はBLMあるいはPEPを照射前に静注し, BLMでは総量90 mg/6回/3週, PEPでは総量45 mg/9回/3週を標準とした。そして導入療法のみ, または導入療法後に追加照射を行い1次治療を終了した症例を導入療法単独群, 導入療法後に手術を行った症例を導入療法+手術群に分けたところ, 前者は22例, 後者は45例であった。研究方法 : 1. 5年累積生存率 (Kaplan-Meier法)および局所制御率を調べた。2. 導入療法の臨床的評価と下顎骨の縦断大割組織標本を用い組織学的評価を調べ, また臨床的評価が組織学的評価と一致するか否か,その正診率を調べた。3. 臨床的評価および組織学的評価と局所制御率との関係を調べた。4. 臨床的評価および組織学的評価と腫瘍の大きさ, X線学的骨破壊様式, 組織悪性度との関係を調べた。研究結果 : 1) 5年累計生存率はT別ではT1, 2群で86%, T3, 4群で64%で, 全体では78%であり, 治療法別では導入療法単独群で87%, 導入療法+手術群で75%であった。2) 本導入療法によるCR率は42%であった。3) 臨床的評価と組織学的評価との関係は, CR3例はいずれもG. IV, PR21例ではG. II: 16例, G. III: 2例, G. IV: 3例であり, CRの正診率は100%, PRでは76%であった。4) 導入療法単独群のCR症例の3年局所制御率は70%, 救済処置により85%, 導入療法+手術群のCR症例の3年と最終局所制御率は同じで86%, PR症例の3年と最終局所制御率も同じで74%であった。5) G. IIAの3年局所制御率は58%であったが, G. IIB, G. III, G. IVでは局所再発はみられなかった。6) T1, 2のCR率は48%であったが, T3, 4では33%であった。またG. III, G. IVの総組織学的評価はT1, 2では42%, T3, 4では23%であった。7) 骨破壊のないもののCR率は88%, 庄迫型では52%であったが, 浸潤型では15%, 虫食い型では33%と低かった。またG. III, G. IVの組織学的評価は骨破壊のないものと圧迫型で44%, 浸潤型と虫食い型では25%であった。8) 組織悪性度評点の7点以上ではCR症例はなく, すべてG. IIAであった。以上のことから本導入療法にてCRに入った症例の予後は良好で, T1, 2で, 骨破壊のないものや圧迫型, さらに組織悪性度評点が6点以下の症例ではCRに入りやすく, 本療法が根治療法となり得る可能性が示唆された。また骨破壊の著明なものでもG. IVの評価を示す症例があった。しかし, 組織悪性度評点の7点以上の症例の治療法に関して再検討を要することが判明した。

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© 1997 大阪歯科学会
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