歯科医学
Online ISSN : 2189-647X
Print ISSN : 0030-6150
ISSN-L : 0030-6150
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
頭頸部癌根治照射例における後障害に対する研究(大阪歯科大学大学院歯学研究科博士(歯学)学位論文内容要旨および論文審査結果要旨の公表)
松本 義之
著者情報
ジャーナル フリー

2000 年 63 巻 2 号 p. 54-55

詳細
抄録

頭頸部癌に対する放射線治療は, 根治性, 形態および機能温存を目的とし, 生活の質(Quality of Life, QOL)を良好に保ちうる治療法である.しかしながら, 放射線治療後の急性あるいは晩発障害がみられることも否定できない.本研究は放射線治療後に局所制御が得られ, なおかつ全身状態が良好で外来通院可能な頭頸部癌患者を対象に, 後障害の発現状態とその対応策を検討したものである.検討項目は以下のとおりである.1.照射野の内・外における抜歯後の放射線骨障害発症の有無.2.放射線照射後の唾液腺機能障害による口内乾燥に対する塩酸ピロカルピン内服薬(KSS-694, キッセイ薬品工業, 東京)の有効性.対象と方法 放射線骨障害について 1.対象は頭頸部癌根治照射後, 歯科治療を目的に1990年から1996年までに本学附属病院に来院した患者で, 照射前のライナックグラムあるいはシュミレーションフィルムが揃っている上・中咽頭癌30症例である.2.対象患者に対して保存不能な歯の抜去を行った.そして, 該当歯それぞれの位置(照射野内, 外)による放射線骨障害発症の有無を検討した.口内乾燥症について 1.口内乾燥の対応策としてはKSS-694を治験薬とした.対象は, 頭頸部癌根治照射後の口腔乾燥症を訴える患者4症例である.治験期間は1996年1月から4月までの4か月間とした.2.治療薬を4週間ごとに3mg, 6mg, および9mg / 日と漸増し, 投与前, 治験薬投与4, 8, 12週後および後観察期の唾液流量測定と血液検査, 尿検査, 総合評価および患者側からの印象を検討した.なお, 唾液流量は, 安静時唾液量および刺激時唾液量の2種類を測定した.また, 副作用について臨床検査および医療側・患者側での有害事象報告をあわせて判定した.結果 1.30症例の対象患者のうち, 3症例がすでに本学初診時に放射線による下顎骨骨壊死を発症していた.それらは全症例が中咽頭癌症例で総線量は60Gyを超えていた.照射野内抜歯と照射野外抜歯の2群に分けて抜歯後の骨の治癒状態を調査した結果, 上咽頭癌患者では19症例中11症例に抜歯が施行され, 照射野内抜歯, 照射野外抜歯いずれも総計32歯であった.中咽頭癌患者では11症例中7症例に抜歯が施行され, 照射野内抜歯:総計19歯, 照射野外抜歯:総計11歯であり, 照射野の内・外にかかわらず, 重篤な骨障害に疑わしめるエックス線所見は現時点では認められていない.2.KSS-694投与後の唾液流量変化は投与開始後, 3mg, 6mg, および9mg / 日と増量するごとに唾液流量が増加しており, とくに6mgおよび9mg / 日投与時には口内乾燥症に対して改善効果が期待できるものと思われた.しかしながら, 投与中止と同時に唾液流量の若干の低下が認められた.各症例の刺激時唾液において, 薬剤投与開始前から投与後の唾液流量の最大値は約2〜3倍の増加を示し, 約25倍の唾液流量の増加を示した症例も認められた.一方, 副作用については, 投与期間中に臨床検査値の異常変動は認められなかった.患者側からの報告では, 1症例に9mg投与時点で発汗が強く認められたが一過性であった.本剤投与後12週時点の総合評価では, 全般改善度は著明な改善が1症例, 改善は1症例, やや改善は2症例であった.総括安全度では全症例がほぼ安全であると考えられた.有用度は全症例有用であると判断され, 患者側からの印象では今回と同じ治療を希望するとの答えがすべてであった.これらの結果は本剤の有効性かつ安全性が期待でき, 頭頸部癌根治照射患者に対するQOLの向上に寄与する可能性を有すると考えられた.

著者関連情報
© 2000 大阪歯科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top