歯科医学
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視床における咬筋痛覚ニューロンの分布と機能特性とについて
岩住 征紀
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2000 年 63 巻 4 号 p. 239-249

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抄録

顎顔面領域の体性感覚情報は, 視床の後内側腹側核および髄板内核群に投射する.深部感覚である筋感覚も同様に上行するものと考えられる.しかし, 表在性の体性感覚と筋感覚(主として, 筋の痛み)との視床での投射様式を比較検討した研究報告は, 皆無である.そこで顎顔面の筋, とくに咬筋からの痛覚入力の視床への投射部位とその視床単一ニューロンの機能特性とをウレタン・クロラロースで麻酔したネコを実験の対象として調べた. その結果, 視床の後内側腹側核および髄板内核群に属する束傍核と外側中心核とから咬筋神経電気刺激に反応する高閾値視床単一ニューロンが検出された.後内側腹側核から検出されたニューロンはすべて後方部被殻領域に存在し, その末梢受容野の大きさとそこへの種々の機械的刺激に対する反応様式とから, それらのニューロンは, 特異的侵害受容ニューロンと広作動域ニューロンとであることが判明した.束傍核と外側中心核とから検出されたニューロンは, 体幹の深部組織への侵害性機械的刺激にも反応した.また, 咬筋に3%NaCl溶液(高張溶液)を注入してその反応を調べたところ, 一部の視床ニューロンに興奮が認められた.咬筋神経に対する電気刺激の強度は痛覚線維を興奮させるに十分なものであり, その刺激に反応した視床ニューロンは, すべて皮膚あるいは皮下深部組織に末梢受容野をもっており, 咬筋への刺激にのみ反応するニューロンはなかった. 以上のことから, 咬筋の痛みに関する情報は, 後内側腹側核では特異的侵害受容ニューロンと広作動域ニューロンとを, 髄板内核群では広い末梢受容野をもつ侵害受容ニューロンを経由して大脳に投射すると考えられる.また, 後内側腹側核から検出されたニューロンの末梢受容野の分布とその収束様式との成績は, 咬筋に原因がある連関痛を説明するのに都合のよいものと考えられる.

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© 2000 大阪歯科学会
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