歯科医学
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In situ PCRによる扁平上皮癌におけるヒトパピローマウイルスの検出法の検討とその有用性
辻本 憲吾魚部 健市田中 昭男
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2001 年 64 巻 3 号 p. 243-252

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抄録

口腔扁平上皮癌におけるヒトパピローマウイルス(HPV)の局在を明らかにするために, in situ PCR法を適用して高感度な検出法を開発した.ホルマリン固定パラフィン包埋切片を使用し, HPVのL1遺伝子をターゲットにしてMY 09-MY 11プライマーを用いてin situ PCR分析に影響する各種因子, すなわちthermal cyclerの種類(液体用と組織用), スライドガラスの処理, 組織の固定時間, 切片の消化酵素(pepsin, trypsin, protease K)処理と時間, PCR反応液の調製, 切片の乾燥防御, PCR増幅酵素の種類, PCRの回数, stringent washの時間, hot startの差異など諸条件を検討し, さらにin situ hybridization(ISH)との感度比較を行った.なおPCR時にはdigoxigenin(DIG)標識ヌクレオチド(DIG-11-dUTP)を使用, 染色時にはalkaline phosphatase標識抗digoxigenin抗体Fab fragmentsおよび基質と発色剤に5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate(BCIP)と4-nitroblue tetrazolium chloride(NBT)を使用し高感度染色を行った.その結果, 至適条件は, 有機シラン処理のスライドガラスに貼付した6枚の切片を使用して6種のpepsin消化時間で反応させ, 水洗後風乾してPCR反応液を載せシールしたのち, 90℃7分熱変性し, 30回のサイクル数で94℃1分の熱変性, 55℃2分のアニーリング, 72℃2分の伸張を行い, DNAを増幅したのち, さらに切片を50℃で30分間stringent washして免疫組織化学的染色を行うことであった.この条件下で扁平上皮癌12例の全例においてHPV DNAが検出できた.In situ PCRは, ISHよりも検出頻度ならびに反応の強度いずれもが高感度を示し, 陽性反応はkoilocytosisを示す細胞, 形態学的に正常に見える細胞および腫瘍細胞にみられ, その局在は核内に全体的にあるいは散在的に存在するもの, エピソームとして核内外に顆粒状に存在するもの, および核と隣接する核外に存在するものとして観察された.以上のことからin situ PCR分析法の確立は今後HPVの発癌性の研究について有用な手段となることが示唆される.

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© 2001 大阪歯科学会
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