歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
小児期における下顎窩の形態変化
萩原 智子
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2002 年 65 巻 3_4 号 p. A11-A12

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抄録

目的 近年,日本人における若年性の顎関節症が増加しており7歳頃から増えはじめ9歳〜12歳に急増するといわれている.それに伴い若年性の顎関節症を惹起する要因に関する研究が進んでいる.小児期における顎関節の円板を含んだ軟組織と骨性構成体の変化を把握することが重要と思われるが,そのいずれも十分な解明がなされていないのが現状である.一方,小児期の側頭骨下顎窩を含んだ顎関節骨性構成体の計測に関する研究は散見されるが,インド人をはじめとした外国人乾燥頭蓋骨を使用した研究や一方向からのエックス線画像を使用した研究に限られる.しかし,若年性の顎関節症の解明には現代日本人小児の顎関節形態の三次元的な把握が必要と思われる.そこで著者は,非侵襲的にデータ収集を行なう観点から,すでに撮像が施されているCTデータから三次元像を再構築することにより,現代日本人の小児期における下顎窩の形態変化をretrospectiveに検討する着想に至り,CT三次元再構築像による計測の妥当性を限られた症例を用いて報告した.本研究の目的はCT像を用いて小児期における下顎窩の三次元的な形態変化を検討することである. 研究資料 平成10年4月より平成12年12月の間に大阪歯科大学中央画像検査室において顎顔面部精査のためにCT撮影を行った小児患者のうち36症例72関節(男児18名女児18名)のHelicalデータを研究資料とした.患児の年齢分布は7歳から12歳であり,各年齢男児3名女児3名計6名から構成される.これらの資料は,基準点(眼窩下,外耳道上縁)と下顎窩部分を含むデータであり,撮像依頼目的が,顎関節部の変形が疑われる全身疾患および症候群,顎関節疾患の確定診断など,顎関節部の成長発育に影響を及ぼすと考えられる症例を除外したものから得られた.また,症例の撮像依頼目的は,顎顔面部外傷の精査,上顎および下顎埋伏歯の精査,上下顎の嚢胞性疾患の精査を含んでいるが,いずれの症例においても3D像の定性的観察において両側顎関節部の骨構成体の非対称性を認めなかった。 方法 CT画像処理の概要を以下に示す.CT撮影にはHispeed Advantage SG(General Electric製)を用い,両側顎関節部をslice厚1mm,テーブル速度1mm/秒,1 slice/secでHelicalデータを収集した.得られたHelicalデータを基にスライス厚1mm厚の水平断画像を0.2mm間隔で再構成した.そのデータをイメージワークステーションAdvantage Windows Ver 2.0システム(GE社製,以下AW)にオンライン転送し,三次元構築・画像処理を行った.3D像はCT値600前後をしきい値として構成された骨表面のボリュームレンダリングモデルとし,画像処理によって可能なかぎり障害像を除去した.この3D像を両側眼窩下点(Orbitale),両側骨耳道上縁点(Porion)を結んだFH平面を基準とし,AWの画面上での水平面と平行になるように設定した.下顎頭を画像処理により除去し,下顎窩の矢状断面像,冠状断面像および前頭断面像を参考に計測点を特定した.これらの計測点をもとに下顎窩の1.水平的位置変化,2.垂直的変化,3.前後的変化,4.左右的変化,5.角度変化について計測項目を設定し,計測を行った.その上で,各計測項目から得られた計測値について年齢を基準変数,計測値を説明変数としてSpearmanの相関係数を算出した.その際,危険率5%以下を以って有意とした.さらに回帰分析として,有意なSpearmanの相関係数を示した計測値について,独立変数xを年齢,従属変数yを計測値として回帰直線を算出した.その際,危険率5%以下を以って有意とした. 結果 計測項目から得られた各計測値について年齢との間のSpearmanの相関係数を算出した結果,水平的位置変化,左右的変化,角度変化の全計測項目から有意な相関係数が得られた.しかし,垂直的変化において,点P'〜点P間距離(関節後突起最下点からFH平面までの最短距離)では有意な相関係数が得られなかったが,他の計測項目では有意な相関係数が得られた.また,前後的変化においては有意な相関係数は得られなかった.有意な相関係数が得られた計測項目において求めた年齢との間の回帰直線は,垂直的変化を除く水平的位置変化,左右的変化,角度変化の計測項目から得られた計測値において得られた. 結論 再構築三次元CT像により7歳から12歳の小児の下顎窩の形態変化について検討を行い以下の結果を得た. 1. 年齢と下顎窩の水平的位置変化,垂直的変化,左右的変化および角度変化の間に関連が認められた. 2.年齢から下顎窩の水平的位置変化,左右的変化および角度変化の回帰が可能であった. 3.年齢と下顎窩の前後的変化の間に関連は認められなかった.以上の結果より,7歳〜12歳における下顎窩形態は三次元的に多様に変化することが示唆された.

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© 2002 大阪歯科学会
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