歯科医学
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大阪歯科学会例会抄録
唾液コルチゾール濃度分析を用いた歯科処置時のストレス評価(第486回 大阪歯科学会例会 抄録)
上り口 晃成井上 宏
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2003 年 66 巻 1 号 p. 123-

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抄録
目的:教室の島谷は血漿中カテコールアミン濃度の測定によって,歯科診療が患者に及ぼすストレスを軽減するためにインフォームドコンセントが有効である可能性を示した.しかし,血液の採取はそれ自体が侵襲となる可能性が存在するうえ,ストレス分析のために日常の診療において患者から血液を採取することは困難である.そこで我々は,侵襲を加えることなく簡便に採取できる唾液中のコルチゾール濃度を分析することで,治療内容の詳細な説明の有無と来院回数が実験的歯科診療によるストレス反応に与える影響を検討した.対象と方法:医学的知識をもたない者を対象に本研究の主旨を説明し,実験協力の同意を得たボランティア18名(男性16名,女性2名,平均年齢20.3±1.6歳)を被検者として用いた.実験は次の手順で行った.まず,被検者を診療室に入室させ,実験の説明を行い,同意を再確認した.説明群には実験器具をすべて見せながら詳細な手順を説明し,非説明群には実験の概略のみを説明した.次に,STAIおよび不安に関するVASを記入させた.そして被検者を水平位にて10分間安静に保ったのちに,2分間の唾液採取・1分間の安静状態・1分間の実験的歯科診療刺激・刺激直後1分以内の不安および疼痛に関するVASの記入と安静状態・2分間の唾液採取・3分間の安静状態という一連の操作を繰り返して行い,最後に2分間の唾液採取とSTAIの記入を行わせて実験を終了した.刺激は,口腔内診査,上顎中切歯部歯肉への浸潤麻酔,下顎歯列の超音波スケーリング,上顎のアルジネート印象を順に行った,コルチゾール濃度,不安VAS値,疼痛VAS値, STAIの状態不安スコアについて,被検者内因子として来院回数および測定時点を,被験者間因子として説明の有無を条件とした反復測定分散分析を行った.また,各試行におけるコルチゾール濃度の変動係数(CV値)を求め,同様に反復測定分散分析を行った.結果と考察:コルチゾール濃度のCV値は,非説明群が説明群と比べて有意に高い値を示した.また,有意ではなかったが,非説明群において第1日のCV値が高く,第2日にかけて減少する傾向がみられた.自宅および来院時のコルチゾール濃度を比較すると,有意ではなかったが,非説明群において第1日の濃度が自宅および第2日よりも高い傾向を示した.STAIの状態不安スコアに関しては開始時が終了時よリ,また第1日が第2日よリ有意に高い値を示した.不安に関するVAS値は説明の有無と来院回数間に交互作用がみられ,不安に関するVAS値と疼痛に関するVAS値はともに,経時的変化に対して有意差が存在した.以上の結果から,歯科診療刺激によって生じるストレスの軽減には詳細な内容説明が有効であること,またストレスは来院の繰り返しにより慣れが生じて減少することが明らかとなった.
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© 2003 大阪歯科学会
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