一般的に,工業原料には必ず不純物としての鉄が含まれるため,鉄を含まない工業用ガラスはほとんど製造されていないと言ってよい。ソーダライムガラスに含まれる鉄は,紫外線から赤外線までの広い波長範囲の光を吸収するが,鉄イオンによる光吸収と配位および周囲のイオンの構造との関係についての報告は少ない。
本研究では,アルカリ土類イオンを含むソーダケイ酸塩ガラス中の鉄イオン周囲の構造を詳細に解析する。Na2O-RO-SiO2ガラスのROをCaOまたはMgOとしたガラスにFeをドープし,Fe2+に焦点を当てるために,ガラスは還元雰囲気下で作製した。Fe2+の周囲の構造は,Mössbauer分光法,分子動力学シミュレーション,X線吸収分光法によって調査した。その結果,アルカリ土類をCaOとした場合,Fe-O間距離が増大するとともにFe2+の6配位の構造が歪むことが示唆された。