【目的】プロスタシン(PRSS8)は、GPIアンカー型トリプシン様セリンプロテアーゼで、上皮細胞のナトリウムチャネルを活性化することが知られている。今回我々は、腸管炎症におけるPRSS8の機能を解析した。
【方法】健常人とIBD患者の大腸粘膜でのPRSS8 mRNAの発現をreal-time PCR法で検討した。大腸粘膜におけるPRSS8の発現について免疫染色法を用いて検討した。PRSS8lox/loxマウスとVillin-Creマウスを交配し、腸管上皮特異的PRSS8欠損マウス(PRSS8ΔIEC)を作製し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いて腸炎を誘導した。DSS腸炎の重症度を、体重変化、腸管長、組織学的所見で評価した。大腸粘膜でのtight junction蛋白発現および粘膜透過性を検討した。
【結果】大腸粘膜でのPRSS8 mRNA発現は、健常人と比較して活動期IBD患者で低下していた。大腸粘膜でのPRSS8発現は、健常人では腸管上皮細胞の頂端側で確認されたが、活動期IBD患者では低下していた。DSS腸炎の重症度は、control群と比較してPRSS8ΔIEC群で、体重減少率および組織学的スコアが有意に高かった。大腸上皮細胞でのToll-like receptor4(TLR4)の発現は、control群に比較してPRSS8ΔIEC群で増強した。大腸上皮細胞でのNF-κBの核内移行は、control群に比較しPRSS8ΔIEC群で増強した。PRSS8ΔIEC群に対するDSS腸炎の重症度は、抗菌薬投与で低下した。大腸上皮細胞のtight junction蛋白のmRNA発現および粘膜透過性は、腸炎誘発時のcontrol群およびPRSS8ΔIEC群で有意差はなかった。
【結論】PRSS8は、大腸上皮細胞でのTLR4の発現を調節し、腸管炎症を制御することが示唆された。