小児耳鼻咽喉科
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症例報告
軟口蓋に発生した異所性歯牙の1例
山上 夏矢子馬場 信太郎吉冨 愛
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2024 年 45 巻 1 号 p. 45-48

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Abstract

異所性歯牙は多数の報告例はあるが,新生児での報告はない.

軟口蓋に発生した異所性歯牙を生後1ヶ月で摘出したことにより,鼻呼吸・経口摂取開始が可能となった症例を経験したので報告する.

出生後すぐにいびき,気道狭窄などの呼吸障害をきたし,喉頭内視鏡所見では軟口蓋に腫瘤性病変を認め発見された.治療は無症状の場合には経過観察でよいとされているが,症例は新生児であり,呼吸障害,哺乳障害があり早期に切除の必要があった.全身麻酔下で腫瘤摘出術を施行した.症状は速やかに改善し,術後は再発を認めずに経過している.新生児期発症の気道狭窄の原因として異所性歯牙の報告はなく,術前に診断は容易ではなかった.耳鼻咽喉科医は咽頭腫瘍の鑑別疾患として異所性歯牙を認識し,適切な治療介入を行うことが求められると考えられた.

Translated Abstract

While there are numerous reports of ectopic teeth, none describe this condition in neonates.

We report herein a female neonate in whom an ectopic tooth on the soft palate was removed at the age of 1 month, enabling nasal breathing and oral intake.

The patient began snoring and showing signs of airway constriction and other breathing problems soon after birth, which led to the discovery of a mass lesion on the soft palate by laryngoscopy. Although follow-up is normally acceptable in the absence of symptoms, the patient had respiratory and feeding difficulties which, in view of her age, necessitated early excision of the mass. After the mass was excised under general anesthesia, the patient’s symptoms improved promptly. Postoperatively, there was no recurrence of the mass.

There were hitherto no reports of ectopic teeth causing airway stenosis, and the diagnosis of the present case was not easy to make preoperatively. Otolaryngologists should include ectopic teeth in the differential diagnosis of pharyngeal tumor and be prepared to provide appropriate therapeutic intervention.

はじめに

異所性歯牙は歯牙がその発生を誤り,正常歯列から離れた部位に出現するものであり,鼻腔内や上顎洞,上下顎骨内の報告は多数みられる.今回我々が経験した1例は,日齢数日で中咽頭に発見された異所性歯牙で,出生後すぐにいびき,気道狭窄などの呼吸障害をきたした.そこで歯の位置異常に関して若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:生後1ヶ月,女児.在胎35週5日.出生体重3120 g,Apgar Score8/9であり,分娩時に異常はなかった.

主訴:呼吸障害,哺乳障害.

現病歴:胎児期に異常なし.

日齢0に口呼吸・軽度のいびき,哺乳困難を認め,日齢9に当院呼吸器科を受診した.口腔内の唾液の貯留と低調粗雑な吸気性喘鳴を認め,SpO2は90%(room air)前後であった.啼泣で酸素化は悪化した.経鼻内視鏡で中咽頭に腫瘤性病変を認め,精査加療目的に同日緊急入院した.

既往歴:日齢1 新生児黄疸で光線療法1日施行.耳介低位,耳小骨奇形.

家族歴:特記すべきことなし.

CT所見(日齢9):上咽頭から中咽頭にかけて,口蓋と接する径1 cm強の占拠性病変を認めた.病変は大部分が周囲より低吸収を呈し,一部石灰化を疑う高吸収域を認めた(図1).未萌出の乳歯の数に異常はなかった.

図1 CT

単純CT,骨条件,軸位断.腫瘤(矢印).

MRI所見(生後1ヶ月):腫瘤の内部は脂肪成分を認め,深部は嚢胞を認めた(図2).

図2 MRI(T2強調画像)

軸位断.腫瘤(矢印).

鼻咽頭ファイバースコープ所見(生後1ヶ月):上咽頭側からみると軟口蓋右側に白色調の腫瘤を認めた.上咽頭を塞ぐように,呼吸時,嚥下時に軟口蓋に連動し変動を認めた(図3).

図3 初診時鼻咽頭ファイバースコープ所見

軟口蓋右側にみえる白色調の腫瘤(矢印),口蓋垂(黒三角).

口腔内所見:唾液貯留を認め,口腔側からは腫瘤を確認することはできなかった.

その他特記すべき所見なし.

臨床検査所見:特記すべきことなし.

以上の検査所見より中咽頭に発生した奇形腫の疑いで,日齢36で摘出術を施行した.

手術所見:全身麻酔下にてDevisの開口器をかけると右軟口蓋,口蓋垂の裏側に白色の腫瘤を認めた.(図4)腫瘤を電気メス,剪刃を使用し剥離し,基部から切除した.基部は右軟口蓋であった.腫瘤は嚢胞状で基部と境界ははっきりせず,出血はあまりなく内部に硬結が確認できた.

図4 術中所見

扁桃上極付近に基部を持つ白色の腫瘤(矢印),口蓋垂(黒三角).

鉗子で把持した腫瘤(矢印).

摘出物は15×13×13 mmの大きさであった(図4).腫瘤に割面を入れると内部に歯牙が確認できた.

病理組織学的検査では,エナメル質,象牙質下に歯髄を認め,正常な歯牙と同様の配列で,形態が保たれていた.腫瘍成分はなかった.(図5).象牙質は薄く,歯髄腔は広くなっている(図5).

図5 病理組織学的所見

HE染色×20 エナメル質(白矢印),象牙質(黒矢印)下に歯髄(白三角)を認める.

HE染色×2 象牙質(黒矢印)は薄く,歯髄腔(白三角)は広い.

術後経過:呼吸障害に関して,術後速やかに喘鳴は消失した.哺乳障害に関して,術前から経口胃管を挿入していた.術後4日目に経口残注入開始し,術後6日目には直母開始となった.

術後7日目に胃管を抜去し,全量の経口摂取可能となり日齢45で退院した.その後は症状なく経過した.

考察

歯牙の位置異常についてはいくつかの報告がされてきた.固有鼻腔内,上顎洞内,上下顎骨内の発生についての報告は多い.鼻腔内については石井1)によるとAlbinus(1754)により初めて報告され,本邦では金杉2)により報告されている.上顎洞については,Dubois(1878)の報告から始まり,本邦では久保3)により報告されている.またそれ以外の上咽頭の発生については,本邦では宮坂4)により報告されている.今回我々は中咽頭由来の発生を経験したが,我々の渉猟し得た範囲で報告はなく,最年少である.本症例は新生児で生下時から呼吸障害,哺乳不良の症状があり,耳鼻咽喉科で施行した鼻咽腔ファイバースコープでは軟口蓋に腫瘤性病変を認めた.

発生の原因としては鈴木ら5)が要約した文献によると,以下である.

1.歯胚が翻転する,2.過剰歯胚,3.門歯骨転位,4.乳歯残存により永久歯の発生場所がない場合,5.歯根が異常に長く発育し鼻腔・副鼻腔に突出する場合,6.外傷,梅毒による歯胚の移動,7.解剖学的奇形の局所現象,8.歯牙と歯槽との平均的発育の欠如

本症例では過剰歯はなく,埋没されている歯の数は正常であり,上顎骨についても異常を認めなかった.また顎部からも離れていた.さらに新生児であることを考慮すると原因としては,7.解剖学的奇形の局所現象の可能性を第一に考える.歯の発生は第6週までに,神経管周囲に発生した神経堤細胞に由来する外胚葉性間葉細胞が上下顎突起の近傍に移動した後,この間葉組織中に口腔粘膜上皮細胞が分裂・増殖しながら陥入し,まず歯堤を形成する6).今回はこの歯堤が,何らかの原因で中咽頭に生じ,そこで歯を形成していったと考えた.また耳介低位,耳小骨奇形を認めるため,第1鰓弓,第2鰓弓に異常を生じた可能性も考えられた.しかし,明らかな下顎形成や筋肉や骨の異常もなく局所的な奇形にとどまっている.

異所性歯牙が新生児時期に発見されることは極めて稀である.異所性歯牙の治療については無症状の場合は経過観察でよいとの考え方もあるが,高齢になって症状が発現し治療を受ける場合も少なくはないため,発見した場合は無症状でも摘出が望ましいとされている7)

本症例は,軟口蓋腫瘤が後鼻孔を閉鎖することにより,鼻閉による呼吸障害および哺乳障害を呈した.乳児では口腔内に占める舌の体積が大きく喉頭の位置が高く,口腔や咽頭腔が狭い.そのため成人に比べて口呼吸による代償が不十分であり,鼻閉をきたすと呼吸障害が強く出る8).乳児の口呼吸の獲得は生後3–6ヶ月程度であり,鼻呼吸が障害されると哺乳不良や呼吸困難を呈し,致命的となる8)ため早期の外科的切除が必要と考えられた.手術により鼻閉改善,哺乳可能が見込めるため,成長発達面を考慮すると,可能な限り早期に切除を行うべきと考えられた.また今後の診療でも咽頭腫瘤の鑑別として異所性歯牙を念頭におく必要がある.

まとめ

生後1ヶ月女児に認めた中咽頭異所性歯牙の1例を報告した.今回の症例では生後より認めていたことから解剖学的奇形の局所現象と考えられた.

本論文の要旨は第16回小児耳鼻咽喉科学会において口演した.

利益相反に該当する事項:なし

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