2025 年 46 巻 2 号 p. 49-52
5歳児健診は,発達障害(自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症,知的発達症等)を早期にスクリーニングする目的で,令和6年から,こども家庭庁の母子保健医療対策総合支援事業のひとつとして始まりました.医療提供体制が,身体的健康課題のみならず心理的・社会的健康課題の克服に関心が集まる中,こども達の不登校やメンタルヘルス疾患の一因となっている発達障害への支援は重要な医療政策となっています.5歳児健診の問診票の中には,発音不明瞭や,軽度の難聴をスクリーニングする目的の項目も含まれています.知的発達症のお子さんでも,発音不明瞭や聞き返しが多いようです.5歳児健診が誕生するまでの背景と,5歳児健診の意義と概要について解説をおこないます.5歳児健診の社会実装化は,こども達の未来を拓くものと期待されています.
令和6年から5歳児健診が,国の支援事業として始まりました.一部の自治体では以前より実施されていましたが,支援事業開始前の実施率は全国で約14%でした1).この支援事業は補正予算で実施されているため,実施率が数年以内に目標に達しなければ,事業が打ち切られる可能性があります.日本における乳幼児の法定健診は1歳6か月児健診と3歳児健診のみであり,乳幼児健診の拡充は小児科医の悲願でした.5歳児健診の主たる目的は身体的異常のスクリーニングよりも,社会性や発達課題のスクリーニングです.そのため,診察所見よりも就園先での集団行動などの情報が重要です.さらに,入口(健診)を広げるだけでなく,社会性や発達に課題のあるこどもが抽出された場合のために,出口(支援体制)もしっかりと整えないといけません.これらの理由から,5歳児健診の支援事業を申請する自治体の数が伸び悩んでいます.小児科医が切望した5歳児健診の実施率が伸びずに事業を打ち切られた場合,半世紀は健診の拡充の話が封印されるかもしれないという危機感を今,小児科医たちは感じています.
小児医療提供体制が大きく変わり,発達障害の支援の重要性が指摘されています.メンタルヘルス疾患の急増の背景には発達障害の二次障害の場合もあります.こども家庭庁が創設された際に,私たち小児科医は,乳幼児期から学童期思春期まで切れ目のない健診制度の推進を要望し,発達障害等を早期にスクリーニングしてメンタルヘルス疾患の予防の重要性を提言してきました.これらの背景と5歳児健診の概要について以下に述べます.
小児医療提供体制の大きな変化が,起きています.今までは,急性感染症等の急性期治療が医療提供体制の主体でしたが,急性期治療進歩や各種予防接種の普及に伴い,急性疾患は軽症化しました.一方で,特にコロナ禍以降,小児医療は身体的健康課題よりも,発達障害,メンタルヘルス,虐待等の心理的社会的健康課題に注目が集まっています.その背景には家庭や地域の環境,社会的要因が複雑に絡み合い,また育てにくさを感じる保護者の増加などがあります.健康教育などの未病対策も重要となってきています.今後,医療に加えて,小児保健領域の重要性が益々増し,乳幼児健診の拡充によって,きめ細やかな保健指導ができることが期待されています.そのことを証明するかのように,医学生のテキストブックにも変化がでてきています2).小児科学の教科書の目次の欄を開くと,各章の順番は一般的に,小児の成長・発達・栄養・診断学・保健と総論が続き,次に各論の最初に,発達障害・心身医学が記されるようになりました.
不登校,自死,摂食障害などのこどものメンタルヘルス疾患への関心が高まる中,2023年の中高生の自殺者数は513人でした3).長期休暇明け(夏休み)に多く発生し,自殺の原因は,家庭問題,健康問題,学校問題など複合的な要因が関係していると思われます.家庭問題(家族からのしつけ・叱責や親子関係の不和)の割合が高いのは,男女ともに小学生で,健康問題の割合(うつ病等の病気の悩み)が高いのは,女子高校生で,学校問題の割合(学業不振・学友との不和・進路に関する悩み)が高いのは,男性では中学生,高校生であり,女性では中学生になります3).著者らの調査では,中高生22,419人中,学業に関する悩み,将来の進路に関する悩み,両親との関係に関する悩みを持つ者が,各々59.7%,60.1%,9.2%でした.一方で,いじめに関する悩みを持つ者は2.6%で,とくに全体の1.6%の子がネットに関するいじめを受けていました.調査では,いじめと家族関係に関するストレスが,自殺との最も強い関連を示しました.特に,ネットいじめへの曝露は,中学生でオッズ比3.1(95%信頼区間:2.1~4.4),高校生で3.6(95%信頼区間:2.5~5.3)と,最も高いリスク要因でした4).
こども家庭庁は令和5年4月に創設され,こども政策の司令塔として,新しい政策課題の立案や,小児保健・福祉分野を中心とする事業を推進していく省庁として開庁しました.私たち小児科医は,小児医療提供体制の変化やメンタルヘルス疾患の急増を踏まえて,この新たな行政機関に対し,医療・保健・福祉・教育の枠を越えた総合的なこどもの支援体制の構築を求め,最も優先されるべきこととして,乳幼児期から学童期思春期まで切れ目のない健診制度の推進を要望しました5).就学する前年に就学時健診(年長の年齢)がありますが,ここで発達や行動面の課題が抽出されても,小学校入学までの十分な時間はなく,発達評価や,適切な支援の提供ができません.その後,入学後に落ち着きがない(図1左),友達関係が作れない(図1中央),社会性が育っていない(図1右)ことが明らかとなっても,こども,保護者,そして,担任教師は,戸惑うことになります.もし,5歳児(年中)の時に健診を実施して,早期にこれら課題を抽出できたならば,こども達とその保護者は,安心して小学校に入学する・させることができるかもしれません.

通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合(学習面又は行動面で著しい困難を占めす児童生徒)は約8.8%と言われています6).それら問題行動の背景のひとつに発達障害があります.発達障害とは,生まれつきの脳の働き方の違いによって,行動やコミュニケーション,学習などに特性が現れる状態のことを指します.周囲との関わりや日常生活で困難を感じることがあります.自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)は,対人関係の難しさ,コミュニケーション障害,こだわりの強さ,感覚の過敏さを認め,特に非言語性のコミュニケーションに困難さを抱え,対人関係が築きにくい特徴があります.注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: ADHD)の主な特徴は,集中力が続かない,不注意,落ち着きがない,衝動的な行動などです.忘れ物が多く,じっとしていられない,順番を待つのが苦手など示します.限局性学習症(SLD: Specific Learning Disorder)は,知的な遅れはないが,読み書きや計算など特定の学習分野に困難があり,読字障害(ディスレクシア),書字障害,算数障害などがあります.ASD,ADHD,SLDは,それぞれ単独で存在することもあれば,複数が合併している場合もあります.これらの特性を持つこどもは,就学後に仲間関係や情緒・行動,学習面で困難を抱える可能性があり,早期にその特性に気づき,適切な支援を提供することが求められます.そのための対策のひとつが,「5歳児健診」です.
5歳児健診の目的は,①こどもの社会性発達の評価,②発達障害等のスクリーニング,③健康を決定する社会的要因の評価です.社会性の発達とは,相手の気持ちを考えた言動や行動が取れるようになり,さらに社会のさまざまな出来事やルールに興味を持つようになることです.発達障害がこの時期にスクリーニングされることによって,就学前に保護者の理解や支援体制が整うことが期待されます.具体的な支援には,健診後のフォローアップ体制として,心理発達相談,療育相談,教育相談,子育て相談等があります.その相談内容も踏まえて,健診後の多職種カンファレンスによって,支援の必要性や,支援方法が協議されます.社会性発達の評価を行い,発達障害等が疑われる場合は,障害の程度によって異なりますが,保育所等(保育園,こども園,幼稚園)への巡回相談を行い,保育所等訪問支援事業による保育士の発達障害児への対応スキルアップを検討したり,療育施設や,医療機関への紹介が行われます.また,こどもの健康を決定する社会的要因には,育児支援の有無,経済状況,住宅環境,親子関係,事故予防,メディア環境,睡眠環境などがあり,こどもが適切な養育環境に置かれているか評価します.5歳児健診の目的が,発達障害をスクリーニングすることに注目が集められていますが,言い換えるならば,こども達が楽しく,安心して小学校に就学できるために必要な支援を早期に提供し,保護者にとっても,こどもを安心して小学校に送り出すためにこどもの社会性の発達を考える機会とも言えます.
5歳児健診問診票には,聞こえ・発音不明瞭に関する課題として,「はっきりした発音で話ができますか(カ行・サ行がタ行に置き換わったり,不明瞭な発音はありませんか)」と「聞き間違いが多いですか」の2問が掲載されています.特に高音部のみ聞こえづらい難聴だと子音が聞き取れてないことがあり,カ行やサ行など一部の語音がうまく発音できないことがあります.5歳児健診マニュアル7)には,確認する文章の例として,「キリンはくびが長くて,高い木の葉っぱを食べます」を掲載しています.「お子さんが何を言っているのか,家族以外の人にはわからないことがありますか」なども聞き取り,「はい」の場合には,鼻咽腔閉鎖不全などの口腔内の機能的異常によるものか,筋緊張の低下などで不明瞭なのかを判断する必要があるので耳鼻咽喉科に相談します.聞き間違いが多い場合は,「ざわざわしているところだと特に聞き返したりしませんか」「また少し離れた場所から呼びかけて反応がなかったりしませんか」なども聞き取ります.また,ささやき声検査にて聞き返す,復唱ができない,左右差がある場合なども聴力の精密検査が必要となります.一方で,「はっきりした発音で話ができますか」「聞き間違いが多いですか」の2つの設問に対する回答で,各々“いいえ”,“はい”と回答したケースに,知的発達症の子が多いことも調査で明らかとなりました(図2).「はっきりした発音で話ができますか」“はい”と回答した人は,control群で88%に対して,知的発達症の群では40%とかなり低い率でした.「聞き間違いが多いですか」“はい”と回答した人は,control群で20%に対して,知的発達症の群では35%と高い率でした.この2問については,難聴のスクリーニングの意味でも,知的発達症のスクリーニングの意味でも重要です.「大きないびきをかいたり,呼吸が止まっていることはありますか?」,「口蓋扁桃肥大やアレルギー性鼻炎はありませんか?」なども聞き取りも必要です.

最後に,5歳児健診の目的は何でしょうか.それは,こども達とその保護者が安心して就学できるよう早期に支援することです.発達に課題を持っているこども達が就学後に,仲間関係や,学習課題に苦労することがあり,早期の気づきが最も良い解決策になります.こどもの未来のために.
利益相反に該当する事項:なし