近年増加し続ける医療的ケアを必要とする子どもの多くが学校に通っていて,学校における医療的ケアのうち,気管切開に関するケアの割合が高まっている.学校看護師の確保や定着など課題はまだ多く,個々の教育的ニーズに応じた教育を受けられるよう工夫されるためには,医療の専門家が,医療的ケア児の医療面だけでなく教育面についても理解し,学校教育体制構築など学校を支援することが期待されている.学校や教育委員会の困り感や不安に対し,医療的ケアの主治医やかかりつけ医,学校医等が,学校や教育委員会のしくみを尊重しつつ直接対話することで具体的で効率的,円滑な支援や連携を行うことが可能となり,日頃の学校生活や校外学習,宿泊学習,災害時,自己管理支援・自立支援など,医療的ケア児の学校教育体制のより良い構築を進める一助となりうる.地域の医療資源や学校等の地理的状況など,地域の実情に応じた連携方法を模索する必要がある.
近年,医療的ケアを必要とする子ども(以下,医療的ケア児)は増加し続けており,在宅の0~19歳の医療的ケア児の推計値は,2005年に9,987人,2022年に20,385人で1),医療的ケア児の多くが学校に通っている.単に学校に通うのではなく,医療的ケア児の生命や安全の確保を最優先事項としながら,個々の教育的ニーズに応じた教育を受けられるよう工夫されるべきである.しかし,医療的ケア児一人一人,病態もケアも異なり,学校生活においては本人・保護者・周囲の人々が試行錯誤している毎日である.学校は医療機関ではなく教育の場であり,本人・保護者と教育者が主体的に動けることが望ましい.それを踏まえた医療者の助言が必要である.医療の専門家が,医療的ケア児の医療面だけでなく教育面についても理解し学校を支援することが期待されている.本稿では,大阪府教育庁と大阪小児科医会との連携で実現した地域の小・中学校の医療的ケア児の学校教育体制を強化する仕組みを通じて,医療的ケア児の学校教育体制構築への支援と連携に有用な点を考察し述べる.
国や自治体が少子化対策に取り組む中でも,出生数の減少は顕著である一方,高齢出産化が進み,低出生体重児の割合が9%を超えて近年は高止まりしている.産科医療・新生児医療など周産期医療を含めた医療の進歩により,救命され新生児集中治療室(以下,NICU)等での治療を必要とする子どもの数が増え,NICUでの急性期治療後に,命と健康の保持のために様々な医療的デバイスが必要な医療的ケア児が急速に増加した.新生児期以降の外傷,虐待,脳炎・脳症や原病の進行によって小児集中治療室で治療を行った後に医療的ケアが必要となった子どもも増えている2).また,不足が社会問題化していたNICU病床の有効活用を図るとともに,重症新生児に適切な療養・療育環境を提供する体制を構築することを目標として,2008年に厚生労働科学研究事業「重症新生児に対する療養・療育環境の拡充に関する総合研究」班が立ち上がり,人工呼吸器を装着したNICU長期入院児を含めて,医療的ケア児の小児在宅医療が推進され,その後10年の間に医療的ケア児数は約2倍となった3).
この状況の中,国の法的整備が進められた.2016年「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」4)で,医療的ケア児が法的に初めて定義された.2021年には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」5)(以下,医療的ケア児支援法)が成立し,「医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに,その家族の離職の防止に資し,もって安心して子どもを生み,育てることができる社会の実現に寄与する」とその立法の目的が記された.医療的ケア児は地域共生社会の中で人として生活する代表者の一人として捉えられるようになった2).
これらの整備以前の日本の障害児教育では「就学猶予・免除」が少なくなく,1970年後半には約1万人いた.1979年に養護学校義務制が始まり,就学猶予・免除者は激減したが,養護学校の訪問教育籍数が増えた.常時人工呼吸器を要し通学が困難な子どもなど,現在も特別支援学校の訪問教育籍者はいるが,近年は漸減している(図1)6–22).文部科学省は支援学校等における医療的ケアの実施体制の整備を促すとともに,学校への看護師等の配置に係る経費の一部を補助するなどの支援を行なってきた23).肢体不自由児が多く通う支援学校では,近年,児童生徒の半数以上が医療的ケア児であり,医療的ケア児の学校教育における学校看護師の雇用体制,認定特定行為業務従事者として医療的ケアを実施する教職員の体制,学校内の役割分担など,経験が積み上がっている.

特別支援学校(幼・小・中・高)の医療的ケア児数の推移を示す(図1)6–22).通学籍と訪問籍の児童生徒を合わせた人数である.2007年度から2024年度の17年間に,医療的ケア児数はほぼ毎年増加し約1.4倍になった.そのうち,気管切開部からの吸引を要する児童生徒数は約2.4倍,人工呼吸器を要する児童生徒数は約3.3倍と顕著に増えている.また,特別支援学校以外の学校の医療的ケア児に関する文部科学省の調査が行われるようになった平成24年度以降(平成24年度~平成29年度は公立の小・中学校,平成30年度は公立の幼・小・中・高校),医療的ケア児数,気管切開部からの吸引を要する児童生徒数,人工呼吸器を要する児童生徒数のいずれも,年々増加傾向にある(図2)11–22).つまり,学校における医療的ケアの中でも気管切開に関わる学校教育体制支援の必要性が年々高まっている.

インクルーシブ教育の推進や医療機器の進歩などにより,人工呼吸器の管理等を必要とする医療的ケア児が地域の小・中学校に通うなど,医療的ケア児の教育環境がさらに変わりつつある.実際には地域の小・中学校では,医療的ケア児が在籍していない学校の方がまだ多く,在籍校でも医療的ケア児は1名あるいはごく少数名ということがほとんどであり,かつ,病態や原因疾患が近似の在籍児を経験することは稀で,学校教育体制の様々なことが新規となりやすい.医療的ケア児支援法の成立を受けて,医療的ケア児の医療や生活だけでなく,教育についても「医療的ケア児が医療的ケア児でない児童生徒等とともに教育を受けられるよう最大限に配慮しつつ適切に教育に係る支援を行うに当たっては,医療的ケア児の可能性を最大限に発揮させ,将来の自立や社会参加のために必要な力を培うという視点に立つことが重要」24)と発信され,地域の小・中学校等でも万難を排して体制作りに尽力されている.
医療的ケア児の教育環境として,支援学校と地域の小・中学校等とで特に異なるのは,1校での学校看護師数と,医療的ケア児1人あたりの学校看護師配置数である.地域の小・中学校では,医療的ケア児が1名であっても,複数名の学校看護師が雇用されシフト制で勤務することが多い.勤務状況としては,看護師は1名であり校内で唯一の医療職となるのは稀ではなく,判断を要する場面では重責を感じやすい.学校管理職・教職員の協力や役割分担,主治医や学校医など医療等の関係機関の連携なくしては,医療機関ではない教育現場での職務を遂行するのは容易ではなく,短期間で離職する学校看護師も少なくない.また,複数名の学校看護師が常時,小学部・中学部・高等部と学校内を分担・巡回している支援学校と異なり,地域の小・中学校では医療的ケア児の病態や体調にもよるが,医療的ケア児に学校看護師が常時付き添う状況になりやすい.限られた人的資源を活用する目的もあって,学校看護師が医療的ケア児の学習支援も担う雇用となっている地域もある.また文部科学省は,支援学校に限らず地域の小・中学校等を含めて,医療的ケア児が在籍する全ての「学校における医療的ケアの対応の在り方などを示した医療的ケアに係るガイドラインを策定したり,教育関係者に加えて医療,保健,福祉等の関係部局や関係機関,保護者の代表者,医療的ケアに知見のある医師や看護師等(保健師,助産師,看護師若しくは准看護師)などの関係者から構成される会議体を設置することを通して,教育委員会における総括的な管理体制を整備すること.」24)と通知しているが,ガイドラインの策定や会議体の設置など,地域の小・中学校単独ではハードルが高い.文部科学省の通知等には,「医療の専門的知見が不可欠であり専門家の知見を活用すること」と繰り返し記されていて,医療現場ではない教育現場で実践可能な助言を示すことが現実的に重要である.
先進医療を担う医療機関が多くあることや,小児リハビリテーションの拠点病院が複数あるため,大阪府に在住する医療的ケア児数は全国有数である.医療や教育のために,他府県から大阪府に転居してきたという医療的ケア児に出会うことも少なくない.人工呼吸器管理などの医療的なケアが必須で長期入院となっていた子どもたちが自宅で暮らせるための小児在宅医療は,大阪府では1980年代から全国に先駆けて進められた.2011年「社会福祉士及び介護福祉士法の一部を改正する法律」25)に規定された研修を受けた介護職員等(学校教員を含む)が,定められた範囲の喀痰吸引や経管栄養を実施可能となった2012年より以前から,大阪府下の特別支援学校(以下,支援学校と略す)や地域の小・中学校等に医療的ケア児が通い学んでいた.つまり大阪府は,日常的に医療的行為を必要とする子どもたちの多くが,地域で暮らし,学校に通ってきた歴史の長い地域である.よく知られていることであるが,「医療的ケア」という言葉は,大阪府立茨木養護学校の当時校長であった松本嘉一氏が,1990年に全国肢体不自由養護学校会で使用したのが始まりで26),自治体文書に記載された最初は,1991年の大阪府教育委員会設置「医療との連携のあり方に関する検討委員会」報告書である27).文部科学省の「令和6年度 学校における医療的ケアに関する実態調査結果」22)では,支援学校(幼・小・中・高等部)に通う医療的ケア児数は,東京都870名(全国8700名中の10.0%)に次いで,大阪府は2位615名(7.0%)であるが,国公私立学校(幼・小・中・高)に通う医療的ケア児数は,大阪府が最も多く270名(全国2,559名中の10.5%),東京都は4位161名(6.3%)とある.つまり,大阪府では,支援学校に通う医療的ケア児も多いが,地域の学校・園に通う医療的ケア児が全国一多い.
早くから地域の小・中学校に医療的ケア児が在籍していた大阪府において.大阪府教育庁は2006年度~2020年度に,小・中学校に学校看護師を配置する市町村に対して,その経費の一部について財政的支援を行なってきた他,市町村教育委員会担当指導主事等が情報交換等を行う「市町村医療的ケア体制整備推進事業連絡会」を開催するなど市町村教育委員会への支援を行っている28).学校看護師雇用に対する補助金については,2017年度からは国が支出するようになったため,大阪府教育庁では2018年度から「市町村医療的ケア等実施体制サポート事業」を実施している.学校看護師の安定的確保のために,小・中学校に勤務する看護師を対象に医療講習会(大阪府看護協会に委託)を実施,また,学校看護職の普及啓発を目的に実践報告会を開催したり,体制整備推進として施設改修等の整備に対する費用補助,市町村通学支援経費の補助などを行っている.
また,学校看護師の定着支援,機能的な医療的ケア実施体制の構築を促進するために,前述のサポート事業の一部として「市町村医療的ケア実施体制構築に係る専門家派遣」(図3)を2019年度より実施している.これは,医療的ケア児が通う大阪府下の小・中学校のうち希望する学校に,医師等が大阪府教育庁担当者,市町村教育委員会担当者とともに訪問し,子どもの学校生活や医療的ケア実施の場面を実際に見ながら,学校看護師や教職員に助言を行うものである.2021年からは,専門家である医師等の派遣を,大阪府小児科医会が受託し行い(表1),医会会員である地域の医師へ,医療的ケア児の学校教育体制の実際や連携を促す情報を提供できる側面もある.なにより,看護師の確保が難しい昨今において,学校看護師の定着は重要であり,本派遣によって看護師の不安が緩和されていることは注目に値する29).

(大阪府教育庁 教育振興室 支援教育課 支援学級グループ作成資料より一部抜粋)(掲載許可を得ている)
| 派遣手順 | ①大阪府教育庁が市町村教育委員会に希望調査し派遣先小・中学校を決定 ②大阪府教育庁から大阪小児科医会に派遣依頼 ③大阪小児科医会が訪問出務希望医師を募る ④医師,大阪府教育庁,市町村教育委員会と学校とで日程調整 ⑤小・中学校へ訪問(2時間) |
| 訪問対象の医療的ケア児 | ・小・中学校で医療的ケアを要している児童生徒 ・主な原疾患:脳性麻痺,神経筋疾患,染色体異常症,二分脊椎症,先天性心疾患,難治性てんかん,1型糖尿病,等 ・学校での主な医療的ケア:経管栄養,吸引,人工呼吸器,導尿,抗けいれん薬投与,インスリン投与,等 |
| 学校訪問当日の参加者 | ・学校(校長,教頭,学校看護師,養護教諭,支援学級担任,等) ・大阪府教育庁 支援学級担当 ・市町村教育委員会 ・医師(1~2名) |
| 学校訪問当日の流れ | ①対象児等の現状説明,授業参観,医療的ケア実施環境見学 ②参加者全員で,学校での困りごとなどを共有し,質疑応答 |
具体的には,以下を助言している(図4).

(大阪府教育庁 教育振興室 支援教育課 支援学級グループ作成資料より一部抜粋)(掲載許可を得ている)
・主治医の意見や指示を学校現場で実施するにあたっての助言(例:ケアマニュアルや緊急時フローチャートの確認,多数の子どもたちがいる教室内でのケアの実施場所の工夫,教育活動中のケアの実施工夫,教育活動とケアのバランス,学校は心配しているが保護者の注意が向きにくい懸念点を主治医に相談する方法など)
・学校医やかかりつけ医との連携工夫についての助言
・地域の医療資源や保健福祉資源,支援学校のセンター的機能等の有効活用のための助言
・災害時対応や宿泊など学校行事等の準備と実施に関する助言 など
医療的ケアに精通する医師等専門家を確保し,医療的ケア児の医療的ニーズ・教育的ニーズに基づいた学校教育体制を構築したり,校内で唯一の医療者というような状況で勤務する学校看護師の不安を払拭することは,地域の小・中学校や市町村だけでは難しい.全国に目を向けると,一部の市町村等では,特定の医療機関が地域の支援学校や小・中学校等の医療的ケアを支援する仕組みを持っている.例えば,大阪府豊中市では,市教育委員会が学校看護師を雇用し,市内の小・中学校を巡回訪問し医療的ケアを実施したり30),2021年度からは市立豊中病院と連携し,病院看護師を学校へ派遣する仕組みがある31).しかし全国画一的な雇用や連携方法をとることは困難で,地域の医療資源や学校等の地理的状況などの実情に応じた,医療的ケア児の学校教育支援の仕組みを構築するのが望ましい.また,学校や教育委員会の困り感や不安は,医師の感覚からは思いがけないこともあるが,学校や教育委員会のしくみを理解したうえで直接対話を増やすことで具体的で効率的,円滑な支援や連携を行うことが可能となる.医療機関ではない教育の場において,生命や安全の確保を最優先事項とし,教育活動を実践できるような学校教職員への助言がなされることを期待している.
利益相反に該当する事項:なし