抄録
環境たばこ煙(ETS)中のニコチンは,ガス状だけでなくたばこ煙粒子に吸着するため粒子状としても存在する。したがって,受動喫煙のマーカー物質としてニコチンの個人曝露量を調査する場合,ガス状および粒子状のニコチンを捕集する必要がある。本研究ではニコチンの個人曝露量を測定する方法として,セミアクティブサンプラーを用いた手法を開発した。本サンプラーは,アルミ製円筒状サンプラー中にニコチンの捕集材としてL-アスコルビン酸を担持した筒状のポリエステル系ポリウレタンフォーム(PUF)を設置し,サンプラー内壁とPUFの隙間に試料空気を小型ファンによって吸引する構造になっている。吸引された空気中のガス状および粒子状ニコチンはPUFに同時に捕集される。L-アスコルビン酸担持PUFを用いることで捕集ニコチンを長時間保持することが可能であった。XAD-4を用いたアクティブ法により求めた喫煙室内空気中平均ニコチン濃度と,本法によるニコチン捕集量は,よい直線関係(R2 = 0.99)を示した。また,セミアクティブ法のサンプリングレートを求めたところ578 mL/minであった。このサンプリングレートは既存のパッシブ法(改良型MoNIC)に対し60倍程度の向上を意味し,低濃度のニコチンが測定可能となった。本手法を実際のETS環境でのニコチン曝露量測定に適用し,ニコチン捕集量から受動喫煙の程度を喫煙相当本数として示すことが可能であった。以上から,本手法は,環境たばこ煙中のニコチンの捕集,個人曝露量調査に有用であることが示された。