室内環境
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原著論文
  • 竹村 明久, 南田 高希, 脇山 雄多, 杉本 泰世
    2025 年28 巻2 号 p. 93-104
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    室内作業者の快適感に伴う知的生産性向上に香りを活用する場合には,嗅覚順応が生じる連続曝露よりも間欠曝露が有効と考えられる。一方で,間欠繰返し曝露には嗅覚疲労の影響が懸念されることから,間欠曝露における香り強さの時間的減衰性状を数値指標で評価できると今後有意義と考え,2種の香りを用いた間欠・連続曝露実験における香り強さ評価を用いて,回帰曲線の定数項を指標とした場合と回帰曲線の所定経過時間までの面積を指標とした場合の2例について検討した。いずれの指標でも,間欠曝露の香り強さ評価は連続曝露の場合よりも大きく,間欠曝露ならば長時間の香り強さ感覚を保持できることを示せた。また,後者の指標の方が任意時間までの累積香り強さ感覚を評価できる点で便利であった。さらに,実験で設定した香りの噴霧濃度と噴霧間隔についてこれらの2指標を用いて条件間比較して,噴霧濃度が香り強さ感覚に及ぼす影響は比較的小さく,噴霧間隔は長いほど香り強さ感覚が大きくなる可能性が示された。
  • 松下 尚史, 石坂 閣啓, 正中 孝弥, 川嶋 文人
    2025 年28 巻2 号 p. 105-117
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,厚生労働省により室内濃度指針値が設定された揮発性有機化合物(VOCs)に替わる代替物質や生活用品,微生物由来VOCsによる室内空気汚染が確認されている。このように多様なVOCsによる健康リスクを評価するには,室内化学物質汚染を包括的かつ継続的に把握することが求められる。本研究では,パッシブサンプラーを用いて,室内空気中で高頻度に検出される93種類のVOCsに対するサンプリングレート(SR)を曝露試験により算出した。本研究で得られたSRは,全ての対象化合物において吸着量と曝露量に高い直線性(R2 > 0.95)と再現性(RSD < 15%)が得られた。また,模擬室内環境における検証においても,曝露チャンバー法によるSRとの乖離は最大15%以内であり,様々な実環境で適用が可能となった。さらに,分子拡散係数を用いた理論的SRSRfu)と実測値SRSRex)を比較した結果,沸点110℃以上の化合物においてはSRfuSRexが良好に一致し,SR推算が有効であると考えられた一方で,低沸点化合物では両者に大きな乖離が見られた。また,分子体積(Volume3D)とSRの関係を解析した結果,分子の体積が鎖状炭化水素や環状シロキサンにおけるSR低下の主要な要素であることが明らかとなった。
  • 松下 尚史, 石坂 閣啓, 川嶋 文人
    2025 年28 巻2 号 p. 119-129
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    従来,ホルムアルデヒドと他のVOCsの同時分析には異なる分析系(HPLCおよびGC/MS)が必要なため,分析工数が増加し,効率性に課題がある。そこで本研究では,室内環境中のホルムアルデヒドおよびその他の揮発性有機化合物(VOCs)を同時に捕集・分析可能なパッシブサンプリング法の構築を試みた。ホルムアルデヒドをo-(2, 3, 4, 5, 6-ペンタフルオロベンジル)ヒドロキシルアミン(PFBHA)塩酸塩で誘導体化し,GC/MSによる測定を可能とする手法をパッシブサンプリングに適用した。吸着剤として,PFBHA含浸シリカゲルと活性炭の混合物を使用し,湿度変動に伴うサンプリングレート(SR)の安定化を図った。最適な吸着剤比率は,300 mg : 300 mg(活性炭:含浸シリカゲル)とし,曝露試験により各VOCsのSRを算出した。その結果,トルエンで0.115 L/min,ホルムアルデヒドで0.247 L/minと良好な捕集速度を示した。さらに,湿度10~80%RHおよび温度15~35℃の範囲においても,SRは±15%以内の変動に収まり,定量値に対する影響はほとんどないことが確認された。本手法は,簡便かつ高感度な測定を可能とし,室内空気質のモニタリングにおいて有用であることが示された。
短報
  • 橋本 一浩
    2025 年28 巻2 号 p. 131-134
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ソファはダニに汚染されているが,日本のソファにおけるダニアレルゲンDer 1を測定した文献は存在しない。そこで著者は2017年10月,関東地方の住宅5軒にて,ソファおよび床のハウスダストを採取し,ダストに含まれるDer 1量を測定した。5軒とも床よりもソファの方がDer 1量が多かった。ソファのDer 1量の幾何平均値は27.8μg/g dustであり,床の幾何平均値は2.6μg/g dustであった。ソファのDer 1量は, 5軒中4軒が喘息発症リスク上昇の閾値とされる10μg/g dustを超過しており,残る1軒もダニ感作リスク上昇の閾値である2μg/g dustを超過していた。
解説
  • 篠原 直秀, 西谷 崇, 兼吉 輝, 達 晃一, 道志 智, 谷 英明, 金 勲
    2025 年28 巻2 号 p. 137-141
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル 認証あり
    感染症の流行時における公共交通機関での感染リスク低減に加え,大気中粒子(PM2.5など)への曝露抑制策として,中性能フィルターの有効性とその経時的な性能変化について実験室および実環境での調査を行った。室内試験では,3種の帯電フィルターを用い,粒子の長期捕集による圧力損失および捕集効率の変化を測定した。その結果,使用開始後から時間経過とともに捕集効率が顕著に低下し,開始時に79%,48%,69%だった捕集効率が,73日後に43%,6.7%,21%となった。この主因はフィルターの帯電性の喪失であった。高濃度で粒子を噴霧させた試験では,大きな粒子の除去には物理的な目詰まり効果が寄与していた。除電処理後の試験では,小さな粒子の除去効率が大幅に低下し,小さな粒子の除去は主に帯電による捕捉によることが示唆された。さらに,実運行されているバスに搭載されたフィルターの性能評価において,フィルターを2年間使用した後でも20 /h程度の相当換気回数が維持されている車両があった一方で,6ヶ月の使用で10 /hにまで低下している例もみられた。バスにおける種類別のフィルターの性能変化は,室内試験における性能変化と同様の傾向であった。本研究は,中性能フィルターの経年変化の実態と要因を明らかにし,公共交通における空調設計やフィルター交換時期の検討に資する知見を提供する。
  • ―官能評価と機器分析によるにおい計測―
    内山 一寿, 城井 啓吾, 菅 勝博, 木津 拓磨, 唐木 恭將, 松井 秀親, 丹羽 啓誌, 達 晃一
    2025 年28 巻2 号 p. 143-154
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル 認証あり
    個々の車両について使われ方が特定できる乗用車に対し,大型バスの室内環境に関する研究は少ない。これは,路線バスでは不特定多数の乗客が利用するため,微生物やエアロゾルなど直接乗員の安全に影響する要因を含む多面的な検討が必要となり,評価が困難であることに起因する。本研究ではバスエアコンの吹き出し口から採取した空気について,官能評価,熱脱着ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析計とにおい嗅ぎシステムを組み合わせたTD-GC-OID-TOFMS機器分析を用いてにおいを評価し,バスにおける空調機器から排出されるにおいの評価方法に関して検討した。まず,複数の被検者を用いた官能評価では,バス車内でにおいを嗅ぐ方法はパネルの体臭の影響などで評価に適さないこと,においをバッグで採取して車外でにおいを嗅ぐ方法は安定して多人数で評価できることなどを見いだした。次に機器分析を用いてヒトの体臭やバスの内装材などが発生源である可能性がある複数の物質のにおいを検出することが出来た。本手法を用い,においに影響する可能性が高い物質やその発生源推定などのスクリーニングが可能となり,今後の多面的な検討に貢献するものと考えている。
  • 酒井 颯大, 徳村 雅弘, 榎本 剛司, 達 晃一, 篠原 直秀, 牧野 正和
    2025 年28 巻2 号 p. 155-167
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル 認証あり
    電子付録
    車室内空気には,内装材,持ち込み物,燃焼ガスなどに起因する多様な化学物質が含まれており,健康影響が懸念されている。従来のターゲット分析では評価対象が限定され,包括的なリスク評価には限界があった。本研究では,加熱脱離ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)とポストカラム反応-水素炎イオン化検出(PR-FID)を組み合わせた定量的ノンターゲット分析(qNTA)に,in silico毒性予測を統合したリスクスクリーニング手法を検討した。本手法は,MSによる定性情報とFIDによるメタン当量濃度を統合することで,標準試薬なしで定性・定量を同時に実施でき,未知物質の評価にも対応可能である。本手法を用いることで,トラックの車室内空気から約130種類の化学物質を定性・定量でき,Hexane(トラックA: 550* μg m−3, トラックB: 710 μg m−3)(*は参考値を示す),Ethyl acetate(トラック A: 560* μg m−3, トラック B: 44 μg m−3)などが高濃度であった。さらに,in silico毒性予測により求めた毒性ポテンシャル(NOELp)と,濃度データから求めた推定ヒト曝露量からリスクポテンシャル(MOEp)を算出したところ,Hexane(MOEp = トラック A: 490, トラック B: 370)やButylcyclohexane(MOEp = トラック A: 2,700, トラック B: 1,900)などが比較的リスクが懸念される物質として抽出された。
  • 橋本 一浩, 井上 悠一郎, 達 晃一
    2025 年28 巻2 号 p. 169-173
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル 認証あり
    日本のバス車室内における微生物叢の報告事例は非常に少ない。今回,路線バス・観光バスの車室内において室内浮遊菌や空調内の付着菌を測定した。空調offでの状態では,浮遊カビ数(DG18培地)の平均は280 cfu/m3,細菌数(SCD培地)は平均290 cfu/m3であった。浮遊カビはCladosporium属が多く外気の影響を大きく受けている様子で,車室内発生と考えられるカビは少なかった。空調の熱交換器表面の付着菌は酵母様の真菌が多く,Aspergillus属やPeniciliium属は検出されず,家庭用エアコンとは菌叢が異なると考えられた。
  • 道志 智, 山下 怜子, 坂井 比奈子, 篠原 直秀, 達 晃一
    2025 年28 巻2 号 p. 175-181
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル 認証あり
    安全・安心な空気の提供,適切な空気質制御のモニタリングを目的として,バス車室内の空気質の見える化を進めている。空気質の見える化には,ガスセンサを用いた化学物質の連続モニタリングが必要になる。ところが,ガスセンサの基本性能や使用方法に関する情報は十分とは言えない。本研究では,ガスセンサの標準的な評価方法を制定するための基礎検討を実施した。本稿では,ガスセンサの応答信号に影響を及ぼすガス配管由来の揮発成分および室内空気中の揮発性有機化合物について,その成分および除去方法について報告する。また,精密な湿度調整のための水蒸気発生システムの構築についても報告する。
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