抄録
本研究では,埼玉県北西部に分布する秩父トーナル岩体から複数の試料を採集し,帯磁率測定,鏡下観察,モード測定,鉱物化学分析,全岩化学分析を行い,その形成過程について考察を行った.帯磁率に基づき,秩父トーナル岩体主岩体の一部を磁鉄鉱系列(主岩体MT)とチタン鉄鉱系列(主岩体IL)に,衛星岩体をチタン鉄鉱系列(衛星IL)に区分した.岩石はいずれもトーナル岩〜花崗閃緑岩であったが,主岩体IL・衛星IL が主岩体MT よりも石英や苦鉄質鉱物に富んでおり,主岩体IL・衛星IL に含まれる黒雲母と角閃石のMg/(Fe+Mn+Mg) 値は,主岩体MT に含まれるそれらに比して小さかった.主岩体IL は主岩体MT よりもSiO2 に富み,MnO,Cr,Pb,Sr,Th,Y,Zn,Zr に組成差があり,やや高いA.S.I.(アルミナ飽和度)を有するが,泥質堆積岩との反応は確認できなかった.また,磁鉄鉱系列とチタン鉄鉱系列に含まれる暗色包有物の希土類元素パターンには明瞭な組成差が認められた.このような岩石学的特徴の違いから,秩父岩体は複数のマグマから形成された可能性が示唆されるが確定には至らなかったため,今後さらなる検討が必要である.