2012 年 119 巻 4A 号 p. D202-D209
植物は、脳のような中央統御型情報処理システムを進化させて来なかったが、環境変化を巧みに察知して、自らの体を移動させることなく体を再構築して適応するという独白の情報処理システムを進化させて来た。最近、植物の情報の処理・伝達を担う分子やその生成・制御の素過程が急速に明らかにされつつある。私たちは、植物が多種多様なストレスを感知して自らの体を再構築し適応する過程において、情報伝達素子としてのCa^<2+>と活性酸素種(ROS)に着目し、濃度の時間的・空間的制御機構や、情報を他の化学信号に変換し機能を発現する機構の解明を進めている。こうした素過程の知見に基づいて、植物の情報処理ネットワークの全体像を構築する研究を推進することが今後の大きな課題であり、環境・食糧・エネルギー問題等への貢献を視野に入れた新世代の植物バイオテクノロジーを展開する上でも重要な基礎となろう。