素粒子論研究
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冥王星の運動に現れるカオス(Relaxation and Stability of Self-gravitating Systems III,自己重力多体系における非線形・非平衡現象,研究会報告)
中井 宏木下 宙
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1993 年 88 巻 3 号 p. C73-C75

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抄録

冥王星の軌道は最大リアプノフ指数が正という意味でカオス的な軌道といわれている.しかし,リアプノフ指数が充分正の有限値を示す期間に於いても,冥王星の軌道は不規則的な運動を示さない.冥王星と初期値が僅かに異なる近接軌道上のテスト天体との軌道要素の差や両天体間の距離は,時間に比例して増加した後,指数関数的に増加し,最後に飽和する.これらの値が飽和する原因は,両天体の臨界引数の差が180度の回り180度以下の振幅で秤動している限り,テスト天体は冥王星と60度以上離れる事が出来ない,ことに起因している.現在の冥王星の軌道は次のような特徴がある.1)臨界引数が180度の回り約85度の振幅で秤動する.2)近日点引数が90度の回り約27度の振幅で秤動する.3)海王星と冥王星の昇交点経度の差の周期は,冥王星の離心率,軌道傾斜角,近日点引数の周期と一致する.この様な安定化機構が働いている限り,冥王星はミクロ的にはカオス軌道を示しても,マクロ的には飽和により規則的な軌道を示すと考えられる.

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© 1993 著者
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