測地学会誌
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GPS固定観測点の変動速度から推定した関東・東海地域の地殻変動
里 嘉千茂島田 誠一
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1993 年 39 巻 2 号 p. 67-86

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抄録

 太平洋,フィリピン海,ユーラシア(及び北米)の各プレートが3重(4重)に会合する関東・東海地域の地殻変動を明らかにするために,防災科学技術研究所がこの地域に設置した10観測点(本論文での使用観測点は8点)からなるGPS固定観測網の1988年4月から1989年8月まで(初島観測点を含む基線については5月まで)の期間における基線長変化率を用いて,各観測点での変動ベクトルを求めた(ただし,今回の解析では,各変動ベクトルの鉛直成分はよく決まらなかった)・基線長変化率は,SHIMADA and BocK(1992)が用いた基線ベクトル変化率に比べて,基準座標系の影響がなく,系統誤差も受けにくいという利点がある,まず,塩山,府中,及び八郷の3観測点を固定して,残りの5観測点について変動ベクトルを求めたところ,本川根と市原の2観測点における水平変動ベクトルは95%(2次元)の信頼限界で有意でないことがわかった.次に,これらの2観測点もさらに固定し,残りの3観測点(初島,下田,及び浜岡)について変動ベクトルを求めたところ,いずれも95%(2次元)の信頼限界で有意に西~ 南南西方向へ変動していることがわかった.即ち,フィリピン海プレートの北端部にある初島と下田の2観測点は,それぞれS83゜W±230方向に15±5mm/yr,及びS87゜W±18゜ 方向に28±5mm/yrの速度で,また,駿河湾の西岸にある浜岡観測点は,S27゜W±25。方向に24±10mm/yrの速度で変動していることがわかった.初島と下田観測点の変動方向は,フィリピン海プレト本体の運動方向(N50゜W)から反時計回りに40゜以上偏っていて,両者は有意に異なっている.従って,伊豆半島を含むフィリピン海プレート北端部は,フィリピン海プレート本体とは異なる方向に運動していることになる.一方,浜岡観測点の変動方向は駿河トラフにほぼ平行である.このことは,西進しながら駿河トラフでもぐりこんでいるフィリピン海プレート北端部によって,トラフに直交する方向の圧縮変形よりもそれに共役な伸長変形をこの地域がより強く受けていることを示している.ここで得られたこれらの変動ペクトルは,標準偏差は大きいもののSHIMADA and BocK(1992)が求めたものと概ね一致しているが,初島観測点の変動方向については彼らのものより分解能が向上している.これらの変動のうち,特に初島及び浜岡観測点の変動は,従来の測地測量から求められているものとは異なっている,このように,本研究は,広域のGPS観測による基線長変化率を用いて各観測点の水平変動ペクトルが精度良く求められることを示した.

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