測地学会誌
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3次元数値予報データに基づく大気電波伝搬遅延量の推定
市川 隆一笠原 稔萬納寺 信崇内藤 勲夫
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1995 年 41 巻 4 号 p. 379-408

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抄録

 大気電波伝搬遅延量の時空変動を調べるために,日本周辺の8ヵ所を対象に気象庁全球客観解析データと定時ラジオゾンデ観測データよりそれぞれ求めた天頂方向の水蒸気遅延量を比較した.双方の変動は,11ヵ月間にわたって位相・振幅ともに良く一致し,差のRMSは1.5~3Cmであった.さらに,大気構造の水平変動を考慮して遅延量を評価するために,気象庁10km格子・地域モデルデータ(10kmデータ)に基づき波線追跡法により遅延量を計算し,球対称大気モデルにより同様に計算した遅延量と比較した。この比較では,中部日本を中心とする約800km四方の領域を対象とし,1989年6月28日12時(UTC)から29日12時(UTC)まで3時間毎の大気変動を予報した9つのデータセットを計算に用いた.10kmデータによる可降水量の予測値とラジオゾンデによる実値との差は5mm以下のRMSで良く一致しており,予測値による水蒸気推定が妥当であることを示す.基線の両端での水蒸気遅延量の差は基線長,及び2地点間の仰角差に比例して増加し,基線方位が寒冷前線に伴う水蒸気分布の勾配と一致する場合,仰角15゜で最大60cm以上に達する.また同じ基線方位において,大気の異方性に起因する水蒸気遅延量の差は,仰角15゜の場合数cm以上の領域が局地的に50~300km,あるいは寒冷前線に沿って帯状に分布し,最大では6cmにも及ぶ.さらに同仰角で温度の水平勾配が顕著な場合には,静水圧遅延量の差が1cmを越える.これらの結果は,水蒸気の空間変動を考慮した大気伝搬遅延量の推定が宇宙測地技術の観測精度向上に不可欠であることを意味する.

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