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論文
「文化人」の生成とリサイクル
――寺山修司の実践、およびその解釈の変遷を事例に――
笹部 建
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2018 年 63 巻 2 号 p. 83-100

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抄録

本稿の目的は、「文化人」と呼ばれる人々を知識社会学的に捉えることである。「文化人」は、単なる有名人とも知識人とも異なる。また、「文化人」は様々にその実践と評価を変容させる。この変容過程と、その後の再評価を通時的に分析するため、本稿では戦後における代表的な「文化人」である寺山修司のふるまいとその評価を対象に概念分析を行った。 結果として、以下の三点が明らかとなった。(1)寺山は初期において詩歌句のジャンルで活躍し、その後マスメディアの中で有名になっていったが、その時点では「文化人」ではなかった。(2)一九七〇年代以降、寺山はアングラ演劇の活動を通して世界的な評価を受け「文化人」となるが、その後国内のマスメディアから揶揄の対象とされていった。(3)死後において寺山は他の「文化人」のふるまいの対象となり、記念館や学会の設立を通して象徴化され、社会的な資源として再利用された。 これらの点から、寺山はマスメディアから距離を取ることで「文化人」となり、死後においては様々な評価の変遷を辿ったことがわかった。このプロセスは、「文化人」における実践と社会的知識の相互作用と、その後の再解釈といった一連の変容であり、I・ハッキングが述べる「ループ効果」だと考えられる。このループ効果によって、人々は「文化人」のふるまいを認識し、また「文化人」もそれを踏まえてふるまいを修正するのであり、さらに死後においてもループ効果は継続することで「文化人」はリサイクルされる。戦後社会におけるマスメディアの発達に伴って活躍した寺山は、その活動と評価の変遷、そして事後的な再解釈を受ける「文化人」の典型であった。

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