ソシオロジ
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論文
  • 柳下 実
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 66 巻 3 号 p. 3-19
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    日本の生活時間に着目した研究では家事・育児・労働時間といった二次活動に焦点が当てられてきた。そのため、一次活動である睡眠に着目した社会学的研究は非常に少なく、睡眠中断といった睡眠の質的側面にジェンダーがどのように影響しているのかについて明らかでない。アメリカ生活時間調査を用いた先行研究では、睡眠を中断して育児をするといった睡眠中断の負担が、女性に大きく偏っていることが示されている。一方で、日本においても先行研究で母親の睡眠に中断が生じることは示されているが、サンプルサイズが小さく、さらに男性をサンプルに含んでいない。そのため、日本において育児による睡眠中断にジェンダー差があるのかが明らかでない。本研究は、日本を代表する生活時間調査である平成一八年(二〇〇六年)社会生活基本調査匿名データを用いて、男性よりも女性が育児による睡眠中断を経験しやすいのかどうかを検討した。結果から、子どもがいない世帯とくらべ世帯に〇歳の子どもがいると、育児による睡眠中断を経験する確率が男性は三・七パーセントポイント高く、女性は一八・九パーセントポイント高い。これらの確率には有意な差があった。世帯の末子年齢が二歳までこうした傾向がみられた。本研究の知見は、日本において育児による睡眠中断を男性より女性が経験しやすいことを示し、睡眠の質的側面におけるジェンダー不平等を示唆する。今後は睡眠におけるジェンダー不平等や、その不平等が他の領域へどのような影響を与えるのかを検討する研究の蓄積が望まれる。

  • ――一九九〇年代における性的少数者のミニコミ誌の分析を中心に――
    武内 今日子
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 66 巻 3 号 p. 21-37
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    本稿は、一九九〇年代において「性的指向」をめぐるカテゴリー化が、人々にいかなる性の理解を可能にしたのかを探るものである。先行研究は、主にゲイ・コミュニティにおける「性的指向」概念の広まりを論じてきたが、この概念を肯定的に受容しない人々がいかにしてこの概念のもとで自らの性を把握したのかをほとんど論じてこなかった。そこで本稿は、特定のグループやアイデンティティに限定せずに、性的少数者が自称するカテゴリー語がテクスト上でどのように使用されているかを分析した。 分析の結果、まず日本において国際的疾病分類の重要性が増した時期に、ある同性愛者団体によって「性的指向」概念が導入され、同性への性的欲望の先天性と不変性という理解のもと、同性愛差別が問題化されるようになったことが示された。だが「性的指向」概念の限界も、とくに「バイセクシュアル」という語のもとで主張されていた。「性的指向」概念は、性別二元性に依拠しない人や一貫した性的欲望を持たない人に、個別的な性を可視化させたのである。さらに、個別的な性に基づく主張を反映させる形で、「性的指向」が「ジェンダー」「セックス」といった他のカテゴリーとの関係で多義的に意味づけられていたことが明らかにされた。この個別的な意味づけ直しの実践には、医学的な治療を必要とする人において性科学の知が参照されやすいなど、個々人の置かれた社会的状況の影響も読み取れた。 このように「性的指向」概念は、その導入の過程で性的欲望や性対象の一貫性などの概念と結びつくことで人々に新たな性の理解をもたらし、人々がそれらの概念との差異によって個別的な性を理解することを可能にしていた。

  • ――遺品整理業の作業事例にみる死の社会的処理の類型――
    藤井 亮佑
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 66 巻 3 号 p. 41-58
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    F・テンニース、M・モース、J・ボードリヤールらの理論を用いて、死の社会的処理の二類型を提示することができる。ゲマインシャフトは、象徴交換に基づく社会類型であるがゆえに、死の社会的処理も象徴交換に基づくものとなる(死のゲマインシャフト化)。一方で、ゲゼルシャフトは、物象化を前提とした社会類型であるがゆえに、死の社会的処理も物象化によるものとなる(死のゲゼルシャフト化)。近代化にともない、死のゲマインシャフト化を成立させる制度は次第に衰えつつあるが、死のゲゼルシャフト化は、現代的変動である多死社会と単独世帯化を要因に、表面化しつつある。ここに興隆する業種が、遺品整理業である。遺品整理業への参与観察により得た作業事例から、遺族が依頼者であっても継承されない遺品に、象徴交換に基づく社会関係の限界があらわれていた。この極限は、身寄りのない人の遺品整理にあらわれ、もはやゲゼルシャフトのなかでだけで作業が進められた。このような、遺品だけでなく、死の意味も贈与されない状況には、死が個別的な事象となり、個人にしか関与しなくなるような事態、死の個別化があらわれている。このとき、遺品は誰にも贈与されず、ゲゼルシャフトにおける整理(商品・廃棄物という選別)の対象でしかなくなる。以上の遺品整理業への検討から、死が物象化するのみに処理されていくという、死のゲゼルシャフト化の完成形態があらわれていることが明らかになった。

  • 德宮 俊貴
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 66 巻 3 号 p. 59-76
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    見田宗介は、社会学を「関係としての人間の学」と規定する。相乗性や相剋性といった独自の諸概念から成る見田の関係の理論において、とりわけ重要なのが「交響」の概念である。本稿では、この交響概念の内実を、関連概念との布置をテクスト内在的に整理し再構成しながら検討してゆく。 まず溶融・対・交響という構図があり、他者との一体化を志向する「溶融」の批判のうえに、他者の他者性・異質性を希求する交響が提唱される。他方で交響は、しばしば相乗性と重ね合わせて理解されてきた。だが相乗性=裂開=溶融という理路があり、相乗性の拠点とされる「裂開」が溶融を帰結してしまうため、両概念を直接的に結びつけることはできない。 そこで本稿では、相乗性の対概念である相剋性に着目して交響概念を読み解き、それ自体としては中立的な「相剋性の因子」(他者の他者性・異質性)との「出会い」こそが交響の体験である可能性を探る。さらに、相剋性の因子が出会いに転化する機序として、「相乗性の磁場」による「反転」を吟味し、交響概念が、相乗性と相剋性のどちらか一方に結びつくのではなく、それらのあいだの動態を含意していることを考証する。最後に見田の外化ー内化論を経由することで、溶融の局面(内化)と「自立」の局面(外化)とを「往還」する螺旋運動から弁証法的に立ち上ってくる関係として、交響を再定位する。 以上の知見は、第一に見田の社会構想論の独自性をより深く理解すること、第二に見田の関係の理論と近現代社会批判とをより整合的に接続すること、第三に、見田が論及する事例に即して交響概念をより具体的に敷衍してゆくことを、可能にするだろう。

  • ――バンドマンによる正統的周辺参加と行為の意図の変容過程――
    野村 駿
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 66 巻 3 号 p. 77-95
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    正統的周辺参加論は、個人がある実践共同体に正統だが周辺的な位置から参加して、徐々に十全的実践者になっていく過程を学習と捉える点に特徴がある。先行研究では、様々な実践共同体とそこに参加する個人を対象に、多くの知見が積み重ねられてきた。それに対し、本稿で焦点を当てるのは行為の意図である。つまり、正統的周辺参加に伴って個人の行為の意図がどのように変化するのかを検討することで、それが実践共同体の再生産・変容に及ぼす影響を明らかにする。 以上の課題に取り組むべく、本稿では夢追いバンドマンを対象とした事例研究を行う。何らかの夢を掲げ、その実現に向けて活動する彼らの実態からは、行為の意図としての夢の変容過程と、ライブハウスを中心とした実践共同体への正統的周辺参加の過程との関連を捉えることができる。またそれは、一人前のミュージシャンとして活動するに至る過程を十分に論じてこなかった既存のポピュラー音楽研究に対しても重要な知見となる。 分析の結果、次の二点が明らかとなった。第一に、バンドマンはライブハウス共同体への正統的周辺参加を通して、「ライブ感」の演出を可能にさせる知性的技能と、「ライブバンド」その過程で彼らの夢の中身と語られ方も変化していた。臆面もなく語られる「音楽で売れる」から、より現実的に語られる「音楽を続ける」への変化である。以上の知見を踏まえ、成員の夢を変化させることで、正統的周辺参加を継続させ、再生産を可能としているライブハウス共同体が、しかしそれによって当初の夢を維持したいバンドマンの離脱を招き、再生産の困難にも直面する点を指摘した。

  • ――『ビッグイシュー日本版』を事例として――
    八鍬 加容子
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 66 巻 3 号 p. 97-134
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2024/07/10
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、ホームレスの人々の〈声〉を届ける『ビッグイシュー日本版』制作現場での実践を通して、ホームレスの〈他者化〉に抗する語り口がいかに発信され、市民に受け入れられうるのかを検討し、特に日本における「ボイス/アクション」の語り口の可能性と限界を考察することである。 〈他者化〉とは、貧困者と非貧困者との間に線引きをし、単なる差異を「劣等性」へと読み替えて非貧困者が貧困者にネガティブな価値判断を付与することである。欧米の貧困研究においては、〈他者化〉に抗するため、再分配の不正義に焦点を当てた「構造/コンテキスト」の語り口、承認の不正義に焦点を当てた「エージェンシー/抵抗」の語り口が登場したが、二つの不正義を同時に捉える必要性が説かれ、「ボイス/アクション」の語り口に可能性が見出されている。この語り口の日本での有効性を検討するため次の二段階で調査を進めた。 まず、『ビッグイシュー日本版』におけるホームレスの人々のライフストーリーのコーナーを三つの語り口を通して分析し、その後﹁読者投稿欄﹂においてそのホームレスの人々の〈声〉が市民にどのように受け止められてきたのかを確認した。次に、ライフストーリーを取材・執筆した記者三人に聞き取りをし、三つの語り口が生まれるのに、販売者、記者、編集部といったアクターの意図がどのように反映されたのかを確認した。 結果、二〇〇三年の創刊から十年ほど経た後にライフストーリーにおいて「ボイス/アクション」の語り口が登場していたが、その〈声〉は読者にうまく届いておらず、語り口の有効性は主流派社会の意識とも密接に関わっていることが示唆された。

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