2022 年 66 巻 3 号 p. 97-134
本稿の目的は、ホームレスの人々の〈声〉を届ける『ビッグイシュー日本版』制作現場での実践を通して、ホームレスの〈他者化〉に抗する語り口がいかに発信され、市民に受け入れられうるのかを検討し、特に日本における「ボイス/アクション」の語り口の可能性と限界を考察することである。 〈他者化〉とは、貧困者と非貧困者との間に線引きをし、単なる差異を「劣等性」へと読み替えて非貧困者が貧困者にネガティブな価値判断を付与することである。欧米の貧困研究においては、〈他者化〉に抗するため、再分配の不正義に焦点を当てた「構造/コンテキスト」の語り口、承認の不正義に焦点を当てた「エージェンシー/抵抗」の語り口が登場したが、二つの不正義を同時に捉える必要性が説かれ、「ボイス/アクション」の語り口に可能性が見出されている。この語り口の日本での有効性を検討するため次の二段階で調査を進めた。 まず、『ビッグイシュー日本版』におけるホームレスの人々のライフストーリーのコーナーを三つの語り口を通して分析し、その後﹁読者投稿欄﹂においてそのホームレスの人々の〈声〉が市民にどのように受け止められてきたのかを確認した。次に、ライフストーリーを取材・執筆した記者三人に聞き取りをし、三つの語り口が生まれるのに、販売者、記者、編集部といったアクターの意図がどのように反映されたのかを確認した。 結果、二〇〇三年の創刊から十年ほど経た後にライフストーリーにおいて「ボイス/アクション」の語り口が登場していたが、その〈声〉は読者にうまく届いておらず、語り口の有効性は主流派社会の意識とも密接に関わっていることが示唆された。