抄録
現在のわが国において,医療,年金,介護といった領域で大きな改革が進みつつある。それぞれにおける決定的な問題点は一体何かということについて,とりわけ政治過程に焦点をあてた形での解明を行なうと個々を貫く底流が浮き彫りになるだけでなく,それらが日本の福祉国家史におけるどのような段階として位置づけられるかも一層鮮明になってくる。一方,そうした動向を日本の社会保障を取り巻く国内外の環境のもとで再定置してみると,20世紀に形作られた特質の持続性,人口構成における変化の持つ重み,東アジアにおける社会政策の国際比較の重要性といった論点が浮かび上がってくる。こうして,内外を取り巻く大きな環境変化のなかでの迫りうる改革に加えて,他方で中長期的な21世紀生活保障原理の構築が同時的に求められているところに,社会保障改革の政治経済学のむつかしさがある。