社会政策
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特集 いま男女間賃金格差を改めて検証する
  • 清山 玲
    2026 年17 巻3 号 p. 1-8
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー
  • 田中 洋子
    2026 年17 巻3 号 p. 9-23
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー

     日本のジェンダーギャップ指数は2025年に146カ国中118位と低迷し、同一労働の男女賃金格差も近年悪化の傾向にある。なぜ日本ではここまで男女賃金格差の改善が進まないのだろうか。

     この問いに答えるため、ここではまず、戦後の社会政策学会の議論の中で、男女賃金格差が生じる要因をめぐる氏原正治郎、竹中恵美子、森ます美らの議論を歴史的に振り返り、その中でいかなる要因が現在まで続いているかを考察する。その上で、女性のフルタイムとパートタイムに通底する問題として、育児などケア時間における男女間の時間分配の不平等が、女性の仕事上・賃金上の不利な状況を継続的にもたらしていることを論じる。

     最後に、日本とドイツの国際比較を通じて、この状況を変革するためには、法律や企業内の「時間」をめぐる政策、すなわち、仕事時間の中にケア時間を組み込む制度を展開することが、男女賃金格差の改善をもたらしうることを論じる。

  • ――小売業の聞き取り調査から賃金格差を考える――
    小野 晶子
    2026 年17 巻3 号 p. 24-38
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー

     本稿では、小売業における聞き取り調査を通じ、この10年間での非正規雇用の賃金制度の変化を法政策の動向とあわせて明らかにし、正規・非正規雇用間の処遇格差が解消に向かっているのかを検討する。公的統計によれば、正規と非正規雇用の賃金格差は縮小傾向にあり、とりわけ賃金水準の低い層において底上げが進んでいる。加えて、この10年間に非正規雇用に関する政策が大きく進展したことも、格差縮小に寄与していると考えられる。

     聞き取り調査の結果、同一労働同一賃金に基づく法政策の変化を背景に、賃金格差是正のため正規と非正規雇用を「ブリッジ」する新たな雇用形態が導入され、両者の間に連続性が生まれていた。一方で、正社員登用は地域を跨ぐ転勤を伴うため希望者は限定的であり、また女性が地域限定の働き方を選択する限り、上位職への登用が進みにくく、結果として女性比率が低くなることが確認された。

  • ――男女格差と経年変化の分析――
    児玉 直美
    2026 年17 巻3 号 p. 39-50
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー

     本稿は、日本の賃金構造基本統計調査を用いて、残業時間に対する賃金プレミアムとその経年変化を分析し、男女賃金格差との関連を検討する。分析の結果、残業時間が長いほど時間当たり賃金が高い傾向があり、その賃金プレミアムは近年上昇している。この理由として、①残業時間が長い仕事は引継コストが高いため長時間労働の価値が高い、②観察されていない変数(例えば、仕事に対する意欲)が残業時間と正に相関している、③上司や顧客は仕事のできる人に仕事を頼むため時間当たり賃金が高い人に仕事が集中し長時間残業になることが考えられる。男性に比較して女性の方が残業時間に対する賃金プレミアムは高いが、その男女差は年々縮小傾向にある。男女賃金格差自体も縮小しているが、同じ職場内の女性の賃金は男性より依然として低い。本研究は、長時間労働を評価する職場文化や男女の職場分離が、賃金格差を形成する重要な要因であることを示している。

小特集 貧困対策における「責任」に関する分野横断的研究:歴史・制度・規範・社会意識の観点から
  • ――貧困対策と「責任」――
    阿部 崇史
    2026 年17 巻3 号 p. 51-53
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー
  • ――19世紀後半ドイツにおける社会政策の形成プロセスを事例に――
    坂井 晃介
    2026 年17 巻3 号 p. 54-65
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー

     本稿は「責任」概念の歴史的意味論を、19世紀後半ドイツの社会政策形成、とりわけ労災保険を事例に検討するものである。一般に西欧諸社会では、近代化と分業により「古典的責任モデル」が揺らぎ、将来の損害予防を重視する「ポスト古典的責任モデル」が登場したとされる。特にドイツでは、ポリツァイの再編と労働災害が契機となり、1860年代には自由と自己責任が強調されたが、1870年代には原因帰属を超えて雇用者や国家の責任が議論され、1880年代には予防責任としての保険制度構想に結実した。さらに1884年の労災保険法は、国家が「不作為責任」を認めつつ、強制保険による連帯を正当化し、自由と自助を補完する仕組みとして成立した。このように責任の意味論は、原因追及から問題解決の引受へと転換し、徐々に個人の自律と社会的連帯の調和を制度化した。本稿はこの歴史的生成を明らかにし、現代の自己責任論を再考するための手がかりを提供するものである。

  • ――生活保護世帯の子どもの大学進学をめぐる議論に注目して――
    朴 慧原
    2026 年17 巻3 号 p. 66-78
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー

     本稿では、生活保護世帯の子どもの大学進学をめぐる議論を手がかりに、低所得層の貧困解決責任のあり方について検討した。近年、給付型奨学金や修学支援制度など、低所得層への高等教育支援が拡大され、子どもの貧困に対して社会が積極的に責任を担う傾向が強まっている。しかし、生活保護世帯の子どもには依然として世帯分離措置が維持され、進学を選択することで既存の支援を失うという構造が続いている。国会や社会保障審議会の議論を分析すると、「一般世帯とのバランス」や「就労義務」を根拠に、貧困対処を個人に引き受けさせる局所的フェアネスに基づく認識と、「社会全体が進学を支援するメッセージ」を重視し、責任を社会に拡大しようとする認識が競合している状況が確認できた。その結果、生活保護世帯の子どもに対しては社会的責任が十分に適用されず、自己責任論が温存される現状が明らかになった。

  • ――哲学的/規範的考察――
    阿部 崇史, 宮本 雅也
    2026 年17 巻3 号 p. 79-90
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー

     本稿は、「責任」観念の役割を踏まえた貧困対策の規範的目標を提示することを目的とする。哲学的/規範的観点から、貧困対策に関する議論における責任の扱い方を考察し、貧困対策における個人と社会との適切な責任分担を示す。〈原因帰属としての責任〉と〈問題対処の引き受けとしての責任〉を区分する理解を提案することで、貧困の自己責任論の問題点を明らかにする。さらに、これら二つの責任の区分に依拠して、問題対処の引き受けとしての責任を個人と社会がどのように分担すべきかを直接に規範的に問うという戦略が、社会による貧困への対処を考える際に有効であると指摘する。そして、自己決定の困難こそが貧困の問題性であるとする立場をとる。この立場に基づき、価値ある選択肢を全ての人に保障する社会構造の構築という社会による問題対処を前提に、個々人がそうした社会構造の維持に貢献するという責任分担が、貧困対策の規範的目標になると論じる。

  • ――原因責任と対処責任の区別に着目して――
    数実 浩佑, 北野 廣平, 池田 大輝, 宮本 雅也, 阿部 崇史
    2026 年17 巻3 号 p. 91-102
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー

     本稿は、貧困問題における「自己責任論批判」の有効性を検証することを目的に、貧困と責任に関する社会意識調査(Web調査)を行った。その際、責任概念を〈原因帰属としての責任〉と〈問題対処の引き受けとしての責任〉に区分し、両者の関係を分析した。前者の責任意識は、因子分析により個人原因意識と社会原因意識の2つを指標とした。また後者の責任意識は、貧困対策への賛否を尋ねる質問によって指標化し、社会対処意識と名づけた。その際、調査対象者の半数に対して、貧困対策の導入にともなう税負担を意識させる実験的操作を行った。分析の結果、第1に、個人原因意識は社会対処意識に負の影響を、社会原因意識は正の影響を与えることが確認された。第2に、税負担が強調されると、社会原因意識が社会対処意識に与える影響は消失することが明らかとなった。以上の知見に基づき、「自己責任論批判」の戦略の有効性は、条件付きであることを指摘した。

投稿論文
  • ――通信の自由化と労働組合の行動変容を題材として――
    対馬 洋平
    2026 年17 巻3 号 p. 103-115
    発行日: 2026/02/10
    公開日: 2026/02/10
    ジャーナル フリー

     本論文は、J. R.コモンズの「競争の脅威」のフレームワークを用いて、1985年の通信の自由化を起点とする市場の拡大が、日本の情報通信産業の労働組合の戦略に与えた影響を分析する。規制緩和前の労働組合は、下請労働者を組織化し、単一の産業別労働組合を形成する方針を掲げた。しかし規制緩和後はその方針を解消し、労使協調に基づき企業レベルで雇用を維持する戦略に転換した。この戦略は、組合員の雇用維持に貢献したが、労働条件の引き下げや交渉構造の分権化および産業における労働組合の交渉力の低下を招く要因となった。分析結果は、労使協調のアプローチで「競争の脅威」に対応することの限界を示すと同時に、労働の不安定化を抑制する制度的要因の欠如を示している。

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