社会政策
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特集 介護保険制度25年の検証と評価
  • 平岡 公一, 小田巻 友子
    2026 年18 巻1 号 p. 1-10
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     社会政策学会151回(2025年度秋季)大会の共通論題では、「介護保険制度25年の検証と評価」と題し、制度の変遷、介護保険財政、障害福祉制度や他国の介護制度との比較といった論点に基づく4名の報告と総括討論がなされた。本稿は当日の議論を踏まえ、介護保険制度の課題と残された論点を整理するものである。介護の担い手の充足は介護保険制度積年の課題である。しかし、介護労働者の賃金水準は依然として低く、政府の進める外国人人材の受け入れも彼らやその家族が将来的に利用者となることを十分に想定していない点で、危うさが残る。また制度の持続可能性を担保するために行われた諸改革や政策イノベーションは、制度の肥大化、複雑化、作動原理の異なるシステムの併存という新たな課題を生み出した。今後は、低所得高齢者の介護保障の在り方や、介護保障の国際比較、他の公的制度や社会的環境要因が政策評価に与える影響についての更なる検討が必要である。

  • ――社会保障・社会福祉制度再編の行方と今後の課題――
    森 詩恵
    2026 年18 巻1 号 p. 11-27
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     本稿では、介護保険制度及び高齢者介護支援がどのように変容したのかを描き出したうえで、介護保険制度は何を実現したのかを明らかにした。介護保険制度は、制度改正を重ねるなかで、高齢者の生活全体を支える包括的ケアの重要性と、地域を基盤とした支援体制の必要性を明確にした点で一定の成果を上げてきた。一方で、サービス供給の不安定性、地域間格差、介護人材不足、家族介護への依存といった課題は依然として解消されていない。重層的支援体制整備事業は制度再編の一歩であるが、介護保険料や財源のあり方を含め、社会保険と公費の関係を再検討する必要がある。現状においても、介護保険制度は改正のたびに綱渡りのような状況が続いており、今後は小手先の制度調整にとどまらず、社会保障・社会福祉制度全体の抜本的な再設計を視野に入れた議論が求められている。

  • 武田 公子
    2026 年18 巻1 号 p. 28-39
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     本稿では介護費用抑制を図る次の三つの改革動向に着目した。第一に地域密着型サービスの拡充、第二に特定施設入居者生活介護の増加、第三に総合事業の導入である。これらは、施設・職員配置基準の緩和による介護費用の抑制、居住費用の自己負担化、および主要な予防給付の保険適用除外等を内容とする。本稿では、保険財政を維持するための保険給付対象の縮減というこの皮肉な現象を「脱保険化」と名付けた。これら「脱保険化」は市町村が保険外でカバーする領域の拡大を意味しているが、その一方で市町村に「保険者機能」の強化を迫るものでもある。これは狭域における給付と負担の縮小均衡という趣旨に他ならない。広域化を選択した国保とは対照的に、介護保険が狭域の保険者機能に焦点化しているのは、市場化によってサービスの地域差があまりに拡大したことを背景としているが、つまるところリスク分散を旨とする保険原理からの乖離に他ならない。

  • ――制度的接合の進展と理念的乖離の分析――
    孔 栄鍾
    2026 年18 巻1 号 p. 40-50
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     本稿は、介護保険制度と障害福祉制度という異なる理念構造と制度原理をもつ二制度において、制度的接合の進展と理念的乖離の先鋭化が同時に進行している現象を、政策過程の分析から追究するものである。介護保険が「自立支援」と財政的「持続可能性」を軸とする政策合理性のもとで展開してきたのに対し、障害福祉は当事者運動と国際人権規範という内外的圧力の影響のもとで、「自立生活」と「権利保障」を制度理念として形成してきた。本稿では、こうした両制度の理念的差異の構造を明らかにするとともに、高齢期ケアの理念的再構成の必要性を提示する。

  • 斉藤 弥生
    2026 年18 巻1 号 p. 51-64
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     スウェーデンの高齢者介護は、地方税を介護財源とし一元的な公的供給を大きな特徴としていたが、競争入札制度による介護事業の民間委託、バウチャー制度の導入等により、特に都市部では営利事業者の供給シェアが増大した。ドイツの介護保険制度は2010年代の改革で、家族の責任を明確にしながらも、家族支援を充実させている。一方、現金給付は近隣諸国からの移民ケアワーカーに使われる傾向にある。介護保険制度はあくまでも部分保険とし、社会扶助、医療保険、自治体高齢者政策、福祉団体による支援活動が連携し、年齢を問わず、介護や支援を必要とする人たちを包括的に支援する。

     本稿では、スウェーデンとドイツにみる介護レジームの変容や特徴を比較し議論することで、現在の日本の介護保険制度の特徴や介護レジームの方向性を明らかにする。

小特集 障害者の就業・生活支援政策の実態と課題
  • 髙野 剛
    2026 年18 巻1 号 p. 65-68
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー
  • 江本 純子, 冨田 哲治
    2026 年18 巻1 号 p. 69-81
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     少子高齢化の進行により生産年齢人口が減少する中、誰もが意欲と能力に応じて働くことが求められている。障害者の労働政策は、今後の労働政策のモデルとなる。

     障害者の就労継続支援A型事業所は、障害者を含む就職困難者の雇用や新しい労働社会に必要であり、地域の活性化にもつながる重要な資源である。だがその事業運営や支援実態は明らかではない。

     筆者は、就労継続支援A型事業所の運営と支援の実態を明らかにし、障害者労働システムの中での位置づけや効果的に運用する仕組みを検討するため、障害者総合支援法による指定基準を満たすA型事業所の地方と都市部のA型事業所の事業主を対象にインタビュー調査を実施した。

     本稿は、調査のうち都市部の分析結果をもとに報告する。調査結果から、A型事業所の一部は、従来の障害者雇用施策の不備を補完することがわかった。そのほか都市部における障害者就労支援の現状と今後の就労支援のあり方を検討する。

  • ――障害者権利条約関連文書を通して――
    磯野 博
    2026 年18 巻1 号 p. 82-92
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     障害者権利条約(以下、条約)は、障害者政策の国際標準ともいえるものである。条約の特徴には、自由権と社会権を保障する「人権の包括モデル」を採用したことや、合理的配慮の前提には積極的差別是正措置があることなどが挙げられる。これらの特徴を象徴するのが第28条である。第28条は、「ニーズに応じた適当なサービスを利用すること」、「障害に関連する費用への援助を利用すること」などを明記しているが、障害者権利委員会が、2022年9月に採択した「日本の第1回政府報告に関する総括所見」(以下、総括所見)は、以下のことを明記している。それは、「障害者と家族が十分な生活水準を確保できる社会的保障制度が不十分であること」と、「障害年金は国民の平均所得と比較して著しく低いこと」である。これらは、日本の障害者が相対的貧困状態にあることを厳しく指摘し、障害年金など、障害者の所得保障を抜本的に改善することを勧告している。

     そこで本稿では、総括所見を障害年金の分野からも完全実施すべく、条約関連文書などを通して、皆年金体制の下での障害年金のあり方を再検討する。

  • 渡邊 幸良
    2026 年18 巻1 号 p. 93-103
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     厚生労働省は、生活保護において生活用品としての自動車の保有を原則として認めていない。例外として、交通不便な地域での通勤や保育所への子どもの送迎、就労自立の見込みのある場合、身体障害者の通院や通所、通学などの場合に自動車保有を認められる。

     障害者の生活保護の自動車保有の問題は、2013年の枚方市の裁判(枚方生活保護自動車保有訴訟と称す)で一応の決着がみられたはずであった。ところが、2022年に三重県鈴鹿市で2件、2023年に岐阜県関市で1件、2024年に北海道江別市で1件の訴訟が申し立てられた。これら各訴訟は執行停止が認められた。結果として、鈴鹿市は2件の裁判で敗訴し、他の2市は生活保護を停止する処分を取り消した。

     本報告では、これらの裁判を取り上げ、生存権保障と経済学的な視点から、障害者に対する生活保護の在り方について検討する。

投稿論文
  • 加藤 穂高
    2026 年18 巻1 号 p. 104-114
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     公共交通機関の撤退・縮小が進む中、地方部においては必需品としての自家用車の役割が高まっている。しかし、生活保護の利用にあたって自動車の保有は原則的に認められていない。このことが地方部における生活保護の利用抑制につながっている可能性が指摘されているが、これまでその因果関係に着目した実証研究はほとんど存在しない。そこで本稿では、自動車保有率が地域の生活保護率に与える影響について、操作変数法および固定効果モデルを用いて計量的に分析を行った。分析の結果、固定効果を含まないモデルにおいては、自動車保有率の上昇が生活保護率の低下と有意な負の関係を持つことが確認され、自動車保有が地域の保護率を抑制している可能性が示唆された。このことは、全国一律に適用されている自動車保有制限が、地方部における生活保護利用の障壁となっている可能性を示唆しており、制度目的に照らした運用の再検討が求められる。 福島大学

  • ――時期別仕事経験における幅と深さに着目して――
    瀬戸 健太郎, 梅崎 修
    2026 年18 巻1 号 p. 115-127
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     本稿では、労働者の通算キャリアから技能蓄積を類型化し、昇進との関係や労働者がどの技能蓄積に割り当てられるかの規定要因を分析し、技能形成と昇進との関連を明らかにする。そのため、本稿では「ライフキャリア実態調査(2022年追加調査)」の二次分析を行った。

     第一に、20代から40代の仕事経験の組合せに着目すると、30代以降、特定の職能で専門性を向上させる「一職能深掘」と20代からの働き方の延長を行う「一職能幅広」「一職能一業務」「複職能」の4つの類型が確認された。第二に、「一職能深堀」が、「一職能一業務」「一職能幅広」と比べても昇進する一方、「複職能」とは課長以上の昇進で拮抗する。第三に、「一職能深堀」への割当は学歴や中3成績という、潜在能力により割り当てられている。

     この結果は、技能蓄積は幅広さだけでなく、高度さを伴う必要があり、こうした技能形成の軌跡への割当は潜在能力により規定されていることを示唆する。

  • ――Amazon社宅配労働者の調査から――
    今野 晴貴, 松永 伸太朗
    2026 年18 巻1 号 p. 128-139
    発行日: 2026/08/10
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

     本稿では、プラットフォーム労働の実態について、とくに日本型雇用システムとの関連性から検討する。アマゾンを中心とした配送業のプラットフォームワーカーとそれを組織する労組専従への調査に基づき、いかに労働の履行可能性が確保されるのかを議論する。その結果、日本ではアマゾンフレックスに基づくアマゾンと労働者の直接契約、アマゾンが指定する配送業者(デリバリープロバイダー)との契約、既存の配送業での労働という三つの労働の組織化形態があることを明らかにし、それぞれの雇用システムとの関連を順に「理念型に近いプラットフォーム労働による抜け道(直接管理)」「外延化された日本型雇用システムへの相乗り(間接管理)」「日本型雇用システムへの相乗り(間接管理)」として特徴づけた。この複数的な労働組織は、日本型雇用システムの特徴としての周辺労働力の活用と、日本における既存の配送システムの存在によって可能になっていた。

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