社会政策
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小特集1 「人物」からみた戦後日本労働史
  • 梅崎 修
    2025 年 16 巻 4 号 p. 195-197
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー
  • ――本部職員たちの群像――
    梅崎 修
    2025 年 16 巻 4 号 p. 198-211
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     本研究では、戦後日本の労使関係に大きな影響を与えた日本生産性本部の職員たちを分析する。生産性運動を分析することは、高度経済成長の理由を理解することにもなる。本稿では、相互信頼的と評される日本の労使関係の構築過程を探るために、生産性運動について文献・口述史料を用いて分析した。まず、生産性運動が労使関係に与えた影響を確認する。その施策とは次のようなものである。1)労使協議制度の導入、2)視察団・委員会を通じた組合幹部の間のコミュニケーションの促進、3)労使双方への幅広い教育の導入などである。さらに本稿では、これらの活動を支えた職員の経歴や考え方を探った。職員たちは3つのタイプに分類することができた。人材タイプから生産性運動を記述すると、ナショナリズム、労働運動、近代合理主義という多面性が見える。これらイデオロギーは関連しながらも1970年代半ばを境に「国民運動」としての側面を失っていったのである。

  • ――組織化の鬼たち――
    南雲 智映
    2025 年 16 巻 4 号 p. 212-224
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     UAゼンセンは日本最大の産業別労働組合であり、これまで組織を拡大し続けてきた。本稿では、全繊(ゼンセン)において実際に組織拡大で大きな実績をあげたオルガナイザー個人に注目し、彼らのオーラル・ヒストリーを用いて、彼らがいかに育成され、どのような思想や行動パターンをもっていたのかを分析した。明らかになったことは第一に、全繊(ゼンセン)におけるオルガナイザー育成の仕組み(OJT)は、1965~75年頃に徐々に整備された。第二に、分析対象とした3名のオルガナイザーはプロ意識をもって組織拡大に邁進し、労働条件が良くなくとも労働運動家としての誇りをもっていた。第三に、全繊(ゼンセン)では組織拡大の圧力が強く、彼らは組織拡大で成果をあげることを第一に行動した。ただし第四に、彼らは経営者を説得して労働組合を作る方法をとることが多かったが、それは全繊(ゼンセン)が経営者に恐れられていたからこそ可能だった。

  • ――原田鼎と磯田一吉――
    仁田 道夫
    2025 年 16 巻 4 号 p. 225-237
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     鉄鋼労働運動を築き上げた人々の中には、長きにわたって運動に携わり、その方向性に大きな影響を与えた人もいるが、関与が一定期間に限られた人もいる。それら多くの人々の活動の集積と相互作用を通じて、運動が形作られたわけだが、後者のような人々については、語られること少なく、歴史研究で取り上げられることも少ない。だが、彼らが果たした役割が小さなものであったとはいえない。本論文では、そのうちの二人、原田鼎と磯田一吉を取り上げ、限られた資料の範囲においてであるが、彼らの行動と発言に光を当て、戦後労働運動形成のプロセスについて、新たな知見を得ることを目指す。とくに戦後初期において、ホワイトカラー層が果たした役割が大きかったことに留意し、ホワイトカラー層出身の原田と磯田の事績に即して、その意義について考察する。

小特集2 高齢者福祉制度の変遷と課題:介護保険制度肥大化の現状を問う
  • 森 詩恵
    2025 年 16 巻 4 号 p. 238-240
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー
  • ――老人福祉法の変遷を辿るなかで考える――
    室住 眞麻子
    2025 年 16 巻 4 号 p. 241-256
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     2000年以降、老人福祉法による介護サービスはごく一部を除いて、介護保険法による介護保険サービスへと転換した。しかし、老人福祉法は介護保険法のベースになっている。また、介護保険制度は社会保険制度の1つであるが、その創設時にあっては、老人福祉的な措置がいくつもとられてきた。本稿では、老人福祉法の変遷を辿るなかで、こうした老人福祉法と介護保険法との関係性について、先行研究に学びながら明らかにしていく。

  • 室住 眞麻子, 宇都宮 理子
    2025 年 16 巻 4 号 p. 257-270
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は2点ある。1つは、あまり知られていない養護老人ホームに関する基本的な概況について各種の調査を用いて明らかにすることである。もう1つは、老人福祉法に基づいて措置施設とされてきた養護老人ホームが、介護保険制度導入後どのような政策的変遷を経て、現在どのような状況にあるのかについて先行研究に学びながら明らかにすることである。本稿では、こうした作業を通じて、養護老人ホームのおかれた現況について浮き彫りにしていく。

  • 森 詩恵
    2025 年 16 巻 4 号 p. 271-282
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、介護保険制度が改正を重ねることでどのようにその内容を変化させてきたのか、その変遷を明らかにし、現在の介護保険制度の姿を明確にすることである。そして、介護保険制度の導入が、老人福祉、社会福祉政策へどのような影響を与えたのかを示した。本論文の結論の一つは、介護保険制度導入前後では、介護保険制度外で対応されてきた介護予防、家族介護、生活支援のサービスが、制度改正を重ねることで介護保険制度内へ組み込まれてきたことである。あわせて、介護保険制度の対象者も、要介護者から高齢者、家族、地域住民までその範囲が広がったことである。二つは、地域包括支援センター創設から生活支援体制整備事業導入といった介護の基盤整備も介護保険制度内に組み込まれることになり、さらに、重層的支援体制整備事業にまで介護保険料が活用され、社会福祉全体まで支えている状況が明らかとなった。

投稿論文
  • ――ソウル市B自治体の介護事業所の調査分析――
    金 鉉卿
    2025 年 16 巻 4 号 p. 283-295
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     本稿では、韓国大都市部の在宅介護サービスの福祉ミックスを明らかにすることを目的とし、市場化に伴う制度的環境が、営利・非営利事業所の行動や、事業所間あるいは政府と事業所の関係にどのような影響を与えるのかを検証した。ソウル市B自治体の在宅介護事業所(訪問療養・昼夜間保護)11ヶ所の管理者を対象としてインタビュー調査を実施した結果、韓国在宅介護サービスの市場化に伴う制度的環境下では、主に個人事業主の営利事業所の増加によって、利用者確保をめぐる事業所間の競争が発生し、市場化が進展していることが示された。特に、訪問療養でその傾向が著しく、市場化の程度が高い。一方、昼夜間保護は、制度初期から福祉館を運営する宗教団体の社会福祉法人が中核的な役割を果たしており、事業所間の協力関係が窺われた。すなわち、サービスの種類ごとに異なる制度的環境の影響が明らかとなった。

  • ――雇用保険に対する「アクセス権」と「選択権」に着目して――
    白石 杏
    2025 年 16 巻 4 号 p. 296-310
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     本稿では、消費生活に関するパネル調査を用いて、過去一年間に転職をして再就職をした女性のうちどれほどの者が基本手当を受給し、なぜ失業時に基本手当を受給できないのか女性の働き方や生活のあり方から明らかにすることを目的としている。分析結果からは、前職で雇用保険に加入していた者に占める失業時の基本手当受給割合は約2割であった。集計結果からは、半数以上がすぐに次の仕事に就くことで失業時の対処をしており、基本手当を受給していた者についても、親や夫に頼る、貯金に頼るといったその他の対処法も用いることで生活を維持していた。計量分析からは、前職で雇用保険に加入していた場合であっても子どもを持ち親と同居をしている者、前職が非正規雇用である者ほど基本手当を受給しない傾向が確認された。被保険者の拡大を進めるだけではなく、自立的で主体的な労働者像に当てはまらない者が失業時に基本手当の受給を選択できる制度設計の必要性が示唆された。

  • 赤城 拓
    2025 年 16 巻 4 号 p. 311-320
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     本稿は、「家族ストレスモデルの世代間連鎖」メカニズムを想定した上で、子どもの貧困と児童虐待との関連を明らかにすることを目的とする。本稿では、2021年に全国に居住する20~69歳の男女2万名を対象に実施された「生活と意識に関する全国調査」の個票データを用いて、分析を行った。

     分析の結果、親の子ども期における貧困経験は、親の子ども期における被ネグレクト経験と親の現在における貧困を媒介して、親の子に対する身体的虐待の発生に正の効果を与えており、「家族ストレスモデルの世代間連鎖」メカニズムは部分的に支持された。

     以上の結果から、児童虐待の発生を予防するためには、貧困世帯への経済的支援を拡大し、「家族ストレスモデルの世代間連鎖」を緩和することが有効であることが示唆された。

  • 阿部 彩
    2025 年 16 巻 4 号 p. 321-333
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     物質的剥奪指標は、海外において多数の研究が蓄積されており、欧州連合においては公的貧困指標として採択されている。しかし、日本における子どもの貧困指標の議論の中では検討が先送りされており、2023年末に閣議決定された「こども大綱」に記載された指標群も、剥奪指標については触れていない。

     本稿は、物質的剥奪指標を構築する項目の選定手法の最新動向をレビューし、項目の妥当性を検討する4つのテストのうち、「低い生活水準を表す適切さ」を検証する‘Suitability’テストを社会的合意アプローチを用いて行った。データは2022年に一般市民2000人を対象とした行ったインターネット調査である。その結果、20項目の子どものいる世帯の必需品、15項目の子どもの必需品が本アプローチの2つのクライテリアを満たしていた。また、人々の必需品についての意識は属性別に見ても高い相関があることがわかった。

  • ――サーベイ実験による分析――
    小川 和孝, 森坂 太一
    2025 年 16 巻 4 号 p. 334-346
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/02/27
    ジャーナル フリー

     本論文の目的は日本の教育の政府支出について、異なる費用負担の下での支持の構造を把握することである。そのことによって、財政的なトレードオフがある中で人々が考える政策の優先順位を明らかにする。分析においては財政制約条件を回答者にランダムに提示した上で、教育政策の拡充について支持するかどうかを尋ねる。分析の結果、財政制約を提示した場合には、負担の種類を問わず教育支出の増加が支持されづらく、異なる負担の種類の中では公的債務の増加は増税と他の政策領域における支出削減にくらべて忌避されづらいことが明らかになった。また、費用負担の問題を明示した場合に、人々の属性による支持傾向の違いがより顕在化しやすい。これらの分析結果は、財政的な制約を無視した調査分析を行うことは真の選好を過大評価する可能性や、政策のフィードバック効果によって特定の政策や財源調達が好まれる傾向を示唆している。

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