社会政策
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巻頭言
特集 パンデミックと社会政策の未来
  • 菅沼 隆
    2022 年 13 巻 3 号 p. 5-15
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     第143回大会共通論題「パンデミックと社会政策の未来」の座長挨拶,討論者の田中拓道会員のコメントとそれに対する報告者のリプライおよびフロアからの質問を要約して記録に残した。

  • ――近代日本における非常時と政策形成――
    榎 一江
    2022 年 13 巻 3 号 p. 16-27
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     日本における社会政策の形成は1911年の工場法を嚆矢とし,主に工場労働者の労働条件に対する規制や医療保険制度の導入によって発展した。1897年に結成された社会政策学会は,1907年に「工場法討議」をテーマとして第1回大会を開き,社会政策を求める世論を喚起したが,1924年に活動を停止した。

     こうした日本の社会政策の歴史的展開と感染症との関係は,これまでほとんど議論されてこなかった。100年前に日本を襲ったスペイン・インフルエンザの大流行も忘れられていたと言ってよいだろう。しかしながら,この頃から結核に対する対策が本格化するなど感染症対策への関心が高まり,1922年の健康保険法によって公的医療保険制度が設けられ,1923年の改正工場法がより実質的な労働者保護を推進した。

     本稿は,近代日本における社会政策の形成に焦点を当て,感染症が与えた影響を検討する。人々の日常生活を維持するためにとられた非常時の政策形成に注目し,ここから,社会政策の未来を展望するための示唆を得たい。

  • 仲 修平
    2022 年 13 巻 3 号 p. 28-41
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,コロナ危機に直面した自営業の内実を記述することによって,社会保障制度を再構築するための論点を考察することである。具体的には,第一に自営業者たちの内実はどのようになっているのか,第二に生活状況がとくに悪化した人々は誰なのかを,自営業と社会保障制度の関係を把握するために実施した社会調査データに基づいて記述する。そのうえで第三に,緊急支援策の一つである持続化給付金を受給した人々は誰だったのか,さらにその制度の利用が事業や生活にいかなる影響をもたらしたのかを分析する。主な分析結果として,感染症の拡大は自営業の内部においてジェンダーや家族構成によって異なる影響を及ぼしていること,および緊急支援策を利用したとしても事業の見通しが必ずしも良くなるとは限らないことが示された。これらを踏まえて,共通論題の趣旨である「社会政策の未来」を検討するうえで筆者が重要だと考える論点を示したい。

  • ――生を包摂する社会科学とは――
    落合 恵美子
    2022 年 13 巻 3 号 p. 42-56
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本論文では新型コロナが女性を苦境に追い込む多重構造を明らかにする。女性は家庭内の無償労働としても職場での有償労働としても「ひとのケアをする」からこの「親密性の病」により大きな打撃を受けている。しかもそのサポートのために公共サービスを提供する公務労働の担い手もしばしば女性であり,報われない働き方を強いられている。「生を支える活動」としてケアを定義すれば,ケアの価値が十分に評価されず,そのために費やす時間や労力が社会を回すために必要な工数として考慮されないことによるひずみが,女性にしわ寄せされたという共通の現象であることがわかる。コロナ以後のニューノーマルの建設のためには,ジェンダー視点をもった再建プランが必要である。ジェンダー平等は,社会の中でケアが正当に位置づけられ,「生を包摂する社会」を実現できているかどうかを測る指標となる。

  • 詫摩 佳代
    2022 年 13 巻 3 号 p. 57-66
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     新型コロナパンデミックは2年以上に渡って人類社会に多大な影響をもたらしてきた。未曾有の危機であるにもかかわらず,人類社会は適切に対処できているとは言い難い。WHO(世界保健機関)を舞台として米中の対立は一層激化しているし,ワクチンをめぐる格差も埋まらない。本稿ではその背景としての,グローバル保健ガバナンスの課題を歴史や構造といった観点で検討する。前半で,国際保健協力が歴史的に国際協調とどのように関わり合ってきたのかを振り返る。後半では新型コロナをめぐる国際社会の対応を概観し,今後,流行の収束に向けてどのような対応が求められるのか,論じていく。

小特集 貧困理論と社会規範
  • 高田 一夫
    2022 年 13 巻 3 号 p. 67-68
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー
  • 志賀 信夫
    2022 年 13 巻 3 号 p. 69-81
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,差別をめぐる規範に着目しながら,貧困理論の歴史展開過程を追っていくことではじめて可能となる問いを立てるとともに,この問いに対する回答を試みる。ここで立てられる問いとは,「貧困理論に積極的差別是正の論理をどうすれば埋め込めるのか,能力主義をどうすれば理論的に克服できるのか」というものである。この問いに回答する過程において,現代の貧困理論の陥穽の原因が,「同格の尊重(parity of esteem)」という観念に対する理論的批判の欠如にあることを明らかにする。そしてそのうえで,この「同格の尊重」という観念を現代的規範に即して「自己決定の尊重」に置き換えて理論展開し,貧困理論に積極的差別是正の論理を内在させていくこと,及び積極的差別是正の実践を後押しすることの必要性について主張する。

  • ――ソーシャルワークに焦点を当てた考察――
    日田 剛
    2022 年 13 巻 3 号 p. 82-93
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     ソーシャルワークの実践には権利擁護が求められるが,それが十分に果たせない現状が見られる。本稿では,その要因となる権利侵害を社会構造上の問題から探った。その際に理論的に整理した権利擁護の構成概念を用いて,何が権利侵害であるのか,またそれがどのようにして現れるのかを介護保険サービスと成年後見制度の課題に関する先行研究から分析した。

     その結果,サービス供給を担う人材や財源の不足による「社会資源の欠如」が見られた。これらは政策によって進められる介護サービスの市場化や,都市部への人口移動などが影響しており,さらに「我が事,丸ごと」等のスローガンが社会資源の欠如を自助努力のみによる解決を正当化する言説になっているとも考えられる。このような現象をガルトゥングが示した「構造的暴力」に当てはめて検証した。さらに「構造的暴力」が引き起こす権利侵害にこそ社会福祉が擁護する権利があることを示した。

  • ――セン・タウンゼント論争を超えて――
    高田 一夫
    2022 年 13 巻 3 号 p. 94-101
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     貧困概念に関するセンとタウンゼントの論争はよく知られている。最近の議論でもリスターはこの論争を丁寧にレビューした上で,結論はタウンゼントに「近いが,(中略)普遍的・絶対的必要も認めている」。「ニードは歴史的・文化的文脈でのみ満足させられない」ということが重要だ,と折衷的に総括している。本報告では,貧困を自己決定の欠如という視点でみることにより,貧困概念を折衷的にではなく,統一的に理解できることを明らかにしたいと思う。そもそもこの議論は,貧困ではない状態が何なのか,をめぐって争われたとみるべきである。したがって,非貧困の概念を確立しなければならないが,センもタウンゼントも不十分だったと考える。そして,リスターのように折衷するのではなく,両者を包括した上位の概念を確立することが政策的にも必要である。そのことにより救貧法的枠組みを脱出する契機が発見できるのではないだろうか。

大会若手研究者優秀賞
  • 恩田 直人
    2022 年 13 巻 3 号 p. 102-115
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     日本における障害者雇用政策の中心となっているのは雇用率制度であるが,一方で雇用率が実質的に適用されない小規模な企業においても多くの障害者は雇用されている。本論文はこうした雇用率制度の適用外企業における障害者雇用の構造を解明することを目的としている。方法としては知的障害者雇用の歴史を検討し,そこから雇用率制度の適用外企業における障害者雇用の実態に迫る。具体的には,以下の3点を明らかにする。一点目は知的障害者の雇用が雇用率制度の対象となる以前から増加傾向にあったという点,二点目は能力に応じて知的障害者の賃金は調整されていたという点,三点目は企業が知的障害者の特性に合わせた配慮を実施していたという点である。これらの検討を通して,雇用率制度の適用外企業において知的障害者は条件付きで機能する労働力であることを示す。

  • ――2013年韓国鉄道労組ストの事例から――
    朴 峻喜
    2022 年 13 巻 3 号 p. 116-127
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本研究は2013年韓国鉄道労働組合(以下,鉄道労組)が鉄道民営化に反対して行ったストライキとそれに対する大学生の連帯に関するものである。本研究は,ストライキの前後で鉄道労組が社会的連帯を構築するためにどのような活動を行ってきたのか,大学生が鉄道労組のストライキを支持した理由は何か,そして最後に労働組合と市民社会の連帯が可能であった理由は何かを考察する。

     本研究では,鉄道労組が民営化反対闘争に取り組むにあたって市民団体との連帯をとりわけ重視し,その連帯の形成にあたっては,「社会公共性理論」の構築が重要な役割を果たしたことが確認できた。このような点は,他の労働組合が市民社会と連帯を構築するにあたってモデルとしうる有用な事例であると考えられる。

投稿論文
  • ――不妊治療との関連を中心に――
    伊藤 ゆかり
    2022 年 13 巻 3 号 p. 128-138
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,妊娠・出産の高年齢化の挙児希望への影響を検討するため,不妊治療との関連を中心に分析をした。健康や医療の分析では,内生性が生じると考えられるため,内生性を考慮した計量モデルを用いて挙児希望に対する不妊治療経験の影響を検討した。

     推計結果から,第一に年齢の挙児希望への負の効果を確認した。高年齢妊娠群の女性において,加齢により挙児希望の意欲が減退していた。夫である男性側の年齢については,夫の年齢が高くなるほど,妻側は2人目以降を持つことを諦める傾向が見られた。妻の年齢だけではなく,夫の年齢も次の子どもを持つ家族形成において重要であることが明らかとなった。第二に,不妊治療経験の挙児希望に与える負の影響を確認した。不妊治療経験者は強い医療費負担感があり,さらに不妊治療経験者は仕事をしていない状況にあることが分かった。妻の年齢にもよるが,総じて不妊治療経験は挙児希望へ負の影響があった。

  • ――地域包括支援センター・在宅介護支援センターの民間委託の経緯と特徴に注目して――
    中野 航綺
    2022 年 13 巻 3 号 p. 139-149
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,社会福祉制度に位置づけられる「相談」について,民間委託がなぜ進められ,どのような影響をもたらしたのかを,史料を用いた政策過程の研究によって分析する。事例として,地域包括支援センターと在宅介護支援センターを取り上げ,この民間委託の政策過程と影響を明らかにする。

     本研究からは,在宅介護支援センターにおける民間委託が,「相談」の硬直化の解消を目的に導入されたこと,また民間委託の範囲は行政の前線における「判定」に限定されていたことがまず示めされる。他方で地域包括支援センターの民間委託では,介護保険法と紐付けられたことにより「相談」の全面的な民間委託が可能とされたことを指摘する。そしてその結果として,行政は委託先に対する「管理」の側面が強化され,当初目指された「相談」の硬直性解消がかえって困難になっているという逆説的状況を明らかにする。

研究ノート
  • ――「雇用主の関与」と労働需要を変化させる「引き金」への着眼――
    筒井 美紀
    2022 年 13 巻 3 号 p. 150-157
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     欧州では,リーマン・ショックを経た2010年代以降,労働供給側中心の積極的労働市場政策(ALMPs)は不況期には機能しないことが痛感され,労働需要側への政策手段の開発に関心が高まっている。「雇用主の関与」すなわち,雇用主の,バルネラブルな諸集団の労働市場参加の促進という社会的課題への積極的な関わりの「引き金」となるのはどんな政策手段か。かかる問題関心からの研究が進んでいる。

     「雇用主の関与」研究は,雇用主のALMPsへの参加動機や参加内容の分類と記述など,現段階では探索的なものが多い。しかし他方で,雇用主を制度的環境や個別的状況を認知し解釈し行為する「行為主体」と見なし,労働需要は雇用主の認知に媒介された可塑的な構築物と捉えることが,重要な分析枠組みのひとつとして共有されつつある。そこで発展してきた諸概念や分析枠組みは,日本国内の同様の研究に対して有益な示唆をもたらすだろう。

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